高校生&大学生による_ジェリクル株式会社様への会社取材No.7

2024年03月26日(火)

木村路偉さん(市立札幌開成中等教育学校_6年生)

こんにちは!!市立札幌開成中等教育学校6年の木村路偉です!

 皆さんは未知に溢れたゼリー状の物質、「ゲル」をご存知でしょうか?
ゲルとは高分子が無数に架橋し網目構造を形成することで、水などの溶媒を中に含む液体と固体の両方の性質を示す物質で、この定義からしてとても柔らかい物質だということがわかります。

 液体を含み、かつ柔らかいものは多くの場合ゲルの仲間で、楽しい食感の「ゼリー」、おむつなどに使われる「吸水剤」、視力をサポートするぷにぷにした物体「コンタクトレンズ」など、これらの製品は全てゲルからできていると言えます。
さらに幅広い意味で解釈すると、私たちの体すらもゲルだと言えてしまうことから、私たちは普段からゲルに囲まれ、ゲルによって支えられているのです。

 少し話がそれてしまいましたが、つまりゲルにはその性質を幅広い分野で応用できる可能性があるのです。
今回は、この「ゲル」という物質をなんと医療や工業等に生かそうとしているゲル界で最先端を飾る企業、「ジェリクル株式会社」さんをご紹介します!!!

 

 ジェリクルさんは、東京大学の酒井崇匡教授が開発した「Tetra-PEGハイドロゲル(通称テトラゲル)」を用いた新たな治療法、Gel Medicineの開発を進めているバイオベンチャー企業です。

ではこの「テトラゲル」は他のゲルと何が異なるのでしょうか。
また、このゲルは具体的にどのような治療に将来使われていくのでしょうか。
以下では主に
①テトラゲルとは何か
②止血剤への応用
③人工靭帯への応用
について話していきます!
 

1. Tetra-PEGハイドロゲルってなに?

 テトラゲルと従来のゲルは、内部の構造に違いがあります。下の絵を見てください!




 これは、ゲルの分子構造のイメージを示していますが、私たちが日常的に「ゲル」と呼んでいるものは、普通はこのように複雑で、不均一な構造をしています。
それ故に、ゲルが引き起こす様々な物理法則の解明が困難であり、ゲルを医療材料として使ったとしても、患者がそれを使用した際にゲルという材料がどのように振る舞うのか、悪影響を及ぼしてしまうのではないか、といった問いに対する答えは謎のままです。

 こうして製品に謎が残ってしまうと、その安全性や効果に疑問が生じます。
これを解消するためには、やはり均一なゲルの使用が求められるわけです。



 テトラゲルは上の図のように、「Tetra-PEG-X」「Tetra-PEG-Y」という2種類の高分子化合物が交互に組み合わさることで作られます。

 この2物質それぞれの真ん中に見られる炭素Cからは4本の、ほぼ等しい長さの腕が生えているような構造になっています。
腕の先端部分のXはYと、YはXと必ず繋がるようになっているので、これらの2種の物質を同量だけ混ぜることでジェリクルさんの開発した均一なゲルが完成するのです!!

 この均一ゲルの良いところは、他の不均一なものに比べゲルの物理的な挙動を理解しやすいところです。
硬化時間や体内での分解時間、弾性率、延伸率、組織への接着性などのゲルの細かい性質を理論と対応させることで、ゲルの特性を精密に制御することができるようになりました。驚きですね!

 では、テトラゲルによって何ができるようになったのでしょうか。
今特に注目されている、「止血剤」「人工靭帯」の2つを中心に紹介していきます。
 

2. ゲルで血を止める!?

 テトラゲルでは、ある条件下でゲルが硬化するように調整することが可能になりました。

これからご紹介するゲルは、血などの体液に触れた瞬間に固まるゲルです!



上の写真をご覧ください! ※画像をクリックすると動画をご覧いただけます
最初は体内が血でいっぱいになっている状態ですが、コンタクトレンズ状のゲルで傷口を塞ぐことで、血の吹き出しを防ぐことができています。
そして、最後の写真では止血後は元通りになっていることが確認できますね!

仕組みとしては、ゲル内が酸性条件下におかれている初期状態ではまだ固まっていないのですが、体液を通じて中性になることで硬化します。

また、このゲルは中から物質を放出する「徐放性」も兼ね備えているので、傷口をただゲルで抑えるだけではなく、ゲルに含まれる特殊な凝固剤によって血ごとゲル化し、出血が抑えられるのです。

 このゲルは手術時に使われる予定で、既に臨床試験を終え現在医療許可待ちの状態であるそうです。
実際止血には長くて3,4時間といったように莫大な時間コストがかかることがあるので、テトラゲルの可能性には驚きですね!
 

3. ゲルで体を支える!?

 次にご紹介するのは、人工靭帯になり得る「ゲル糸」です。
私たちの靭帯が切れてしまった際に手術に用いられる主な手法として、「自家腱移植」が挙げられます。
これは、自家腱と呼ばれる他の負傷していない腱を靭帯の代わりとして負傷部分に縫い付ける手法となっています。

  ※画像をクリックすると動画をご覧いただけます
 
しかし、これでは自分のまだ元気な部位の腱を犠牲にしてしまいます。
そこでこの課題を解決へと導くのが「ゲル糸」なのです。
 
ただ常に人の体を支えるとなると、それに相応な強度を持った材料が必要になるのは当然のことです。
ではゲルでこれは成し遂げられるのでしょうか。

 安心してください!!!こちらの写真をご覧ください。
このおもりの質量は12 kgとなっていて、ゲル糸を束ねる ことでこれほど重たい物質を支えることができるのです。

  ※画像をクリックすると動画をご覧いただけます

そして理論上、断面積が1㎠のゲル糸はなんと1000 kgもの車を持ち上げることが可能であるそうです。
自分の腱を使わなくとも、これだけ強靭で伸縮可能なゲルがあれば、私たちも安心して暮らせますね!!
 

4. さいごに

 食品のゲル、日用品のゲル、材料のゲル、世の中には多様なゲルが溢れている中で、今回はジェリクルさんの医療に使われるゲルについてご紹介しました。
医療という分野にまでゲルが使えるかもしれない。。。
まさに今、このような製品が生まれようとしていることにはとても衝撃です。
「ゲル」のもつ可能性には胸が躍りますね…!!
 
 ここまで記事を読んで下さりありがとうございます!!
これを読んで「ジェリクルさんの取り組みをもっと知りたい!」という方は是非、以下のサイトに飛んでみて下さい。
https://gellycle.com/
興味深いことが沢山書かれています。



 最後に、取材を受けてくださったジェリクル株式会社の稲垣さん、取材をサポートしてくださった野々山先生、中島さん、小柳津さん、正田さん、大変貴重な機会をありがとうございました。
 
取材先:ジェリクル株式会社
取材日:2024年3月26日(火)
 

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