高校生&大学生による_公益財団法人川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)様への会社取材No.1

2022年06月01日(水)

2022年3月30日、神奈川県川崎市キングスカイフロントにあるナノ医療イノベーションセンター(通称iCONM)のオンライン取材を行いました。
4名の高校生が取材記者として参加し、iCONMの研究開発や将来展望について質問しました。
4名の高校生による取材記事を紹介致します。
 

 

緑川 凜さん(市立札幌開成中等教育学校_5年生)

私の記事では、ナノマシンと体内病院のシステムによってこれからの社会がどのように変わっていくかについて紹介していきます。

​図 正常な血管の穴と薬物, ナノマシンのサイズ

ナノマシンとは、直径50ナノメートル(1mmの2万分の1)程度の薬剤を内包した小さな高分子の球体です。
病気になってしまった部分に直接届くので、従来の薬剤よりも効率的に薬効を示し、少ない量、短い期間で治療を終わらせることができると期待されます。
実は、血管の壁には無数の穴が空いています。
​​​​がん細胞は、栄養をたくさん取り入れてどんどん成長しようとするので、その周りの血管の穴は、通常のものより大きくなるのです。薬剤を内包する、50ナノメートルほどの小さいナノマシンは、通常の大きさの穴には入れませんが、この大きくなった穴を通り抜け、がん細胞だけを攻撃します。
この仕組みによって、正常な細胞は攻撃されず、脱毛や吐き気などの副作用は抑えられるので、治療中でも、それまでとほぼ変わらない生活を送ることができると期待されます。
さらに、ナノ医療イノベーションセンターさんは、「体内病院®」という仕組みを実現するというプロジェクトも進めていました。


図 体内病院の概念図

体内病院とは、ウイルスとほぼ同じ大きさのナノマシンが常に体内をめぐり、自動で病気の発見から診断、治療までを行うというシステムです。
これが実現すると、がんや脳疾患などの患者を減らし、誰もが健康な人生を送ることができるようになります。
小さくなった医師が、体の中で病気を治療するという発想は、70年近くも前の1953年には、『鉄腕アトム』などの作者である手塚治虫さんの漫画や1966年のアメリカの映画ですでに登場していました。
昔から考えられてきた、まるでSFのようなアイデアが、あと一歩で実現しようとしているのです。
取材に協力していただいたナノ医療イノベーションセンターさん、ありがとうございました。

出典
1分でわかる‼プロジェクトCOINS
COINS Concept
 

大井 真さん(山形県立東桜学館高等学校_2年生)

Q1. 人間の体から異物として攻撃されないように、糖などの物質を見つけるのは簡単なのですか?
また、ピンポイントにその薬を届けるのは大変なのですか?


A1. 今回紹介させて頂いた標識物質は、グルコース(糖分)と環状RGDペプチド(細胞接着タンパク質)でした。
ガンはその強い増殖性のため、酸素不足状態で、嫌気的代謝(解糖)が活発です。
これに目をつけて、グルコースを標識物質にするとガンに取り込まれやすいナノマシンが作れます。


図 環状RGDペプチド配列を標識部位に持つナノマシンが脳腫瘍に入っていく様子

また、脳腫瘍は強いバリア機能がありますが、環状RGDペプチド配列を標識部位にすると、このバリアをうまく突破させることができます。
これ以外にも世の中では多くの分子が研究されています。
しかし、届いてほしいところだけを標的できるような物質はそう多くありません。
届いてほしいところに上手く届いたと思っても他の臓器に誤って届いてしまったりする可能性があったりするので、どの分子を選択するかは非常に難しいところです。
そのため、何が効いて何が効かないかは、多くの研究をしてきた経験や勘が活きてくるところです。
また、今後はAI(人工知能)などを使用して、効果的な物質を予測できるようになってくる可能性があります。

Q2. 今後もしかしたらどの体の部位にも適した物質が見つかる可能性はありますか?

A2. まだ可能性はあると思います。
過去に私が高校生や大学生のときに万能薬を作りたいと思っていましたが、実際に研究をしていると、無理だなと思いました。(笑) 
どんなガンでも選択的に標的できる分子があればいいかなと思います。
しかし、研究すればするほど中々そう言うものはないように思ってしまいますが、やはり理想的なのはガンならどれでも標的にできる物質が見つかることです。
現実的には、ガンのそれぞれの個性に合わせた標的が選択されてくるのかなと思います。
また、それぞれのガンに対して最適な分子が選定されてきてそれを基に新しい薬ができてくるのではないかなと思います。

 

渡邊 廉さん(山形県立東桜学館高等学校_2年生)

今回私たちが取材したのは、ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)です。
ナノ医療イノベーションセンターは高分子ミセルの中心部に薬物を閉じ込め、局所に作用する機能を持つ「ナノマシン」の開発や、血液を使い、がんなどの病気の診断を行う「miRNAバイオマーカー」など現在の医療技術の一歩先を行くような研究を行っています。

その中でも、ナノ医療イノベーションセンターが力を入れているものは、ナノマシンを駆使した、究極の先制医療“体内病院”の実現です。血液中に薬物を包み込んだナノマシンを投与しておき全身を回らせ、病原体やがん細胞などを発見する「検出」、「診断」見つけ次第、薬物をナノマシンが離し、薬剤を作用させる「治療」によって構成され、いつでも・どこでも・だれもが、気づかない内に健康になれる、そんなSFチックな技術がナノ医療イノベーションセンターによって研究されています。

そんな中、取材中に質問をしました。

Q.「ナノマシンを使った、『体内病院』のメリットはわかりましたが、逆にデメリット、そしてそれを解決するような策は何か考えていますか?」

A1.「今一番に考えられるのは、『勝手に治されるのは嫌だ!』などの心理的な面で抵抗を持っている方が多いという印象です。
改善策はとにかく私たちが信頼できる結果をたくさん出し、発信していき、皆さんに理解してもらう事が必要だと思っています。」

A2.「『体内病院』を知ったことによって、『体内病院は本当に良いのか』という論議ができるじゃないですか。
そういった事をどのくらい積み重ねられるか、科学者と社会の人たちの間でいつもコミュニケーションが取れる体制をとっていくことが重要なのではないかと思っています。
その質問には答えがあるようで無い、『こうしたほうが良い』ということではなく、リスクについてのコミュニケーションが必要なのではないかと思います。」


今回の取材を通して、高分子を使った先進的な研究と、社会と向き合うためのコミュニケーション力が重要になっていくのだなと考えました。
 

本間 楓さん(山形県立東桜学館高等学校_2年生)

夢を叶える医療技術を次々と発明、発信しているナノ医療イノベーションセンター。
今回の取材にてその技術を発信するまで様々な工夫と試行錯誤が凝らされていることが分かりました。 
今、ナノ医療イノベーションセンターさんが手掛けているのは、究極の先制医療「体内病院」と呼ばれる、ウイルスサイズのナノマシンが体内の微小環境を自立巡回し、24 時間治療・診断を行う技術であり、いつでも・どこでも・だれもが、気づかぬうちに健康になれる社会を実現するまさに夢を叶える医療技術です 。
しかし、そこにもやはり、たくさんの試行錯誤の歴史があるのです。 


図 ナノマシンの基本骨格


図 ナノマシン(高分子ミセル)がガンにのみ作用する

ナノマシンは主にポリエチレングリコール、ポリアミノ酸という高分子を用いて作られており、大きさやポリアミノ酸を変え、様々な性質を持たせる、リガンド分子という治療標的を特異的に認識するものを装着するなど様々な工夫で局所的に薬を確実に運ぶことができます。 
例えばガン治療の際、がん組織の周りの血管壁には通常より大きな穴が開くという性質を利用しナノマシンの大きさを 30~50nm 程度にする他、ポリアミノ酸をグルタミン酸というものにし、白金制がん剤(抗がん剤)と結合させることで安定して患部のみに薬を届かせるということができるのです。
しかし、そのときの最適なポリエチレングリコールの分子量12000 という値に到達するまでに様々な値による試みがありました。
大きすぎるとポリエチレングリコールの体積が大きくなり、ポリアミノ酸の凝集力だけではナノマシンになりにくくなる一方で、小さすぎると薬をうまく内包できなくなるためです。 
また、度重なる研究により薬物集積率が悪く、生存率が非常に低い膵臓がんもナノマシンの大きさ 70nm、50nm、30nm で比べた時、小さくするほどがんに薬が届くことが分かったのです。 

Q、「30nm 以下ではさらに効果を得られると思ったのですが可能なのでしょうか?」 

A、「搭載する薬の量を変えれば 15nm 程度に抑えることができますが、それ以下にすると対象の場所以外の場所にも分布してしまうので、15nm~30nm がベストだと考えています。」 

他にも脳腫瘍の治療、血液内でのナノマシンの構造の維持、異物として人体から攻撃されないような性質を付け加える、などナノ医療イノベーションセンターさんはここでは書ききれないほど膨大な試行錯誤を通し、夢をカタチにするため一歩一歩歩みを続けているのです。

☆快く取材に応じてくださった、岩崎廣和 様、持田祐希 様、山本美里 様に心より感謝申し上げます☆
 

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