表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance: SPR)

生体関連分析法

執筆:有馬祐介・玉田 薫(九州大学)

表面プラズモン共鳴法(Surface plasmon resonance: SPR)は、表面への分子の吸脱着を非標識かつリアルタイムで計測できる方法
表面プラズモン共鳴法(Surface plasmon resonance: SPR)は、表面への分子の吸脱着挙動を金属表面近傍の屈折率変化として非標識かつリアルタイムで追跡できる方法です。吸着分子の膜厚(吸着量)を測定できるほか、リアルタイム計測結果から吸着・脱着速度など速度論的解析も行うことができます。

 

測定できること

膜厚 / 吸着量 / 吸着・脱着速度 / 分子間相互作用パラメータ(解離定数、結合・解離速度定数)



 

原理

表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance: SPR)法は、表面への分子の吸着や脱着挙動をリアルタイムで追跡できる方法です。表面プラズモン(Surface plasmon: SP)とは、金属表面に局在した自由電子の集団的振動に基づく疎密波です。金属表面に光を入射するとき、金属表面に局在するSPと入射光が共鳴する条件になると、入射光のエネルギーが金属表面へと移動します。この現象がSPRと呼ばれます。SPRには、金属薄膜を用いる伝搬型SPR、金属ナノ粒子やナノ構造を用いる局在型SPRがあります。

 

1.伝搬型SPR1)-3)

図1には伝搬型SPRとして広く用いられているKretschmann光学配置および測定システムの概略図を示します。レーザーをp偏光にし、金属薄膜(厚さ50 nm程度)を蒸着したプリズムに入射させ反射光を検出します。ゴニオメーターで入射角を変えながら反射光を計測すると、反射光強度の入射角依存性が得られます。金属薄膜が無い場合、反射率は入射角の増加と共に増加し、全反射が起こる角度(臨界角 θc)以上で反射率は一定となります。一方、金属薄膜がある場合は、臨界角より大きな入射角で反射率の急激な低下がみられます。これは、全反射したときに界面に発生するエバネッセント波とSPの波数が一致することで共鳴が起こり、入射光が吸収されるためです。反射率が最も小さくなる入射角はプラズモン共鳴角と呼ばれ、金属の種類、入射光の波長、プリズムおよび媒体の屈折率によって変わります。表面プラズモン波の電場強度は金属表面から離れるにつれ指数関数的に減衰し、その距離(しみ出し長)は数百 nm程度です。分子の吸着などでしみ出し長の領域内の屈折率が変化すると、SPの条件が変化し共鳴角がシフトします。分子の吸着による共鳴角シフトから、吸着分子の膜厚や吸着量を求めることができます。具体的には、プリズム/金属/吸着層/媒体の多層モデルを考え、各層の膜厚と複素誘電率を用いてフレネルの式に基づいたシミュレーションを行うと、吸着膜の厚さ(吸着量)と共鳴角シフトの関係を得ることができます。この関係と実験結果で得られた共鳴角シフトを照らし合わせることで、吸着分子の厚さ(吸着量)を決定することができます。
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図1 伝搬型SPRに用いられるKretchmann光学配置と測定システムの概略
 

2.局在型SPR3)

局在型SPRでは、金属薄膜の代わりに金属ナノ粒子または金属ナノ構造を用います(図2)。数~数十 nm程度のサイズを有する金属ナノ粒子または金属ナノ構造体に光が照射された時、光の電場分極によりナノ構造体内の自由電子の分布に偏りが生じ電気双極子が誘起されます。金属ナノ粒子または金属ナノ構造に入射光を照射し透過スペクトルを計測すると、自由電子の集団運動と共鳴する特定波長で強い吸収が見られます。この共鳴現象が局在型SPRと呼ばれ、金属ナノ構造体の性質がバルクの金属とは異なる特徴の一つです。局在型SPRでは、プリズムなどの光学素子を使うことなく測定でき、垂直入射(s偏光)でもSPRを起こすことができます。共鳴波長は、金属の種類、形状、サイズ、ナノ粒子間距離により変化します。表面への分子の吸着が起こると、しみ出し長(粒子の直径程度)の領域内の金属近傍の屈折率変化に応じて共鳴波長がシフトします。
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図2 局在型SPRの概略
 
 

3.測定対象

伝搬型SPRおよび局在型SPRはいずれも、センサーとして金属が必須です。銀、金、アルミなど様々な金属が利用可能ですが、化学的安定性などの観点から金が主に用いられています。表面プラズモン場のしみ出し長よりも薄い膜(アルカンチオールの自己組織化単分子膜、高分子薄膜・グラフト層、生体分子など)で金属表面を被覆すれば、様々な材料の膜厚測定やその表面への分子の吸着挙動を調べることができます。大気中や溶液中など様々な環境下で計測することができ、吸着させる分子はガス、有機分子、生体分子、ナノ粒子など多種多様なものを用いることができます。


 

4.リアルタイム計測

SPRの最大の特徴は、分子の吸着などの表面で起こる現象を非標識かつリアルタイムで計測できることです。伝搬型SPRを例として、リアルタイム計測について説明します(図3)。入射角を共鳴角よりも低角度で固定し、反射率の時間変化を計測します。まず、吸着させる分子を含まない緩衝液を流し、そのときの反射率をベースラインとして取得(過程①)した後、分子を含む溶液を流します。直後に起こる反射率の増加(過程②)は、緩衝液と溶液との屈折率の差によるものでバルク効果と呼ばれます。その後、溶液中の分子が表面に吸着すると、金属表面近傍の屈折率が増加するため反射率がさらに増加します(過程③)。ここでの反射率は、バルク効果と吸着による影響が合わさったものとなります。一定時間経過後に緩衝液を流すと、バルク効果に相当する反射率が急激に低下し、さらに吸着分子の表面からの脱着が起これば反射率は徐々に低下します(過程④)。リアルタイム測定の前後で入射角-反射率の関係を計測し共鳴角シフト量を求めれば、縦軸の反射率を吸着量に換算することができます。このようにして得られたリアルタイム計測結果を解析することで、吸着速度や脱着速度などの速度論的な解析も行うことができます。

SPRを用いた速度論的解析の代表的な例が、リガンド-レセプター間の分子間相互作用パラメータの測定です。抗原-抗体反応を例にすると、センサー表面に抗原(リガンド)を固定しておき、そこへ抗体(レセプター)を含む溶液を流しリアルタイム計測を行います。抗体溶液を流している時の反射率増加曲線(過程③)を解析することで結合速度定数を、緩衝液で洗浄時の反射率の減少曲線(過程④)を解析することで解離速度定数を求めることができ、2つの速度定数の比から解離定数を算出することができます。リガンド-レセプターの組み合わせを変えれば、抗原-抗体反応をはじめ、DNA、糖鎖、脂質など様々な分子間相互作用に関する情報を得ることができます。
 
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図3 伝搬型SPRを用いた吸脱着挙動のリアルタイム計測
 
 

5.その他の測定法

SPRの利点は、①大気中や水中など様々な環境下で計測できる、②1 ng/cm2程度の微量な吸着を計測できる、③非標識で計測できるため試料の前処理が不要、④リアルタイムで吸脱着挙動を追跡できる、などです。一方で、血清など複数種の物質が混在する試料を用いる場合、全吸着量は算出できますが組成の情報は得られません。吸着層の組成に関する情報を得るためには、混合物を吸着させた後、特定分子と特異的に結合する抗体溶液を流し結合量を計測するなどの工夫が必要となります。
 
上述の伝搬型SPRでは、レーザーが照射される1点での吸脱着挙動が計測されます。これを2次元に拡張したSPRイメージング装置も開発されています4)。拡げた白色光(フィルターで特定の波長域に限定したもの)を光源とし、CCDカメラを用いて反射光の2次元像を得ます。異なる試料をアレイ状に配列したセンサー表面を用いることで、多検体の同時測定が可能です。また、表面プラズモン共鳴による増強電場を用いて更なる高感度計測が可能な表面プラズモン場増強蛍光法5)など、SPRを利用した新規計測法も開発されています。

 
参考文献
1) W. Knoll, Annu. Rev. Phys. Chem., 49, 569 (1998)
2) J. Homola, Chem. Rev., 108, 462 (2008)
3) 岡本隆之、梶川浩太郎、プラズモニクス-基礎と応用、講談社、2010
4) J. M. Brockman, B. P. Nelson, R. M. Corn, Annu. Rev. Phys. Chem. 51, 41 (2000)
5) T. Liebermann, W. Knoll, Colloid Surf. A, 171, 115 (2000)
 

 

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