材料力学試験(Mechanical Test)

物性評価法

執筆:西野 孝・松本拓也(神戸大学)

変形ひずみと応力の関係から、さまざまな力学物性を評価する試験法
高分子材料に重りをぶら下げると伸びます。押し付けると厚みが減りますし、横たえた材料を二か所で支えて、真ん中に重りを載せると撓(たわ)みます。これらは各々、引張試験、圧縮試験、曲げ試験と呼ばれる力学試験法で、典型的な変形を対象にしています。これらの試験で得られる力学物性値(弾性率、引張強度、破断ひずみ等々)は、材料の基本的な物性であるだけでなく、その高分子の実用上の価値、適用範囲を判断する上で、大変重要になります。

 

測定できること

弾性率 / 力学強度 / 破断ひずみ / 破壊エネルギー / 疲労強度



 

原理

1. 引張試験とは


図1 高分子材料の引張変形
 
図1に示したように、高分子材料に荷重Wを加えると、材料は伸びます。このときにWを断面積Sで割って得られる値を応力σといい、単位はN/m2になり、別名Pa(パスカル)と呼ばれます。応える力というとイメージが難しいように思われますが、たとえ話としては、皆さん自身が高分子材料になって、手にWの重りを持った場面を想像して下さい。そうすると、外から見ると、重りで腕が引張られているように見えますが、皆さん自身からすれば、重力で落ちようとする重りを落ちないように腕で支えてあげている、引張り上げるのに力が必要、という状態になり、「応答する力」というニュアンスが理解していただけるでしょうか。あるいは応力の英語での表現のようにStress(ストレス)という方が、より直感的にわかりやすいかもしれません。さて、σによって、元の長さL₀が伸びて、L₀+ΔLになった場合にひずみε= ΔL / L₀と定義されます。ひずみは英語ではStrain(ストレイン)です。長さを長さで割っていますので無次元です。
このときに、σεの関係を描くと、図2のような曲線が得られ、応力(σ)―ひずみ(ε)曲線、S-Sカーブと呼ばれます。普通はεを横軸に取ります。この曲線からは、図に示したようなさまざまな物性値が得られます。原点に近いところから順番に見ていくことにしましょう。

図2 高分子材料の応力(σ)―ひずみ(ε)曲線
 
まず、初期の傾き(∂σ/∂ε)₀は弾性率と言われます。εが無次元ですので、単位はσと同じくPaです。言葉で書き下すと、「単位断面積あたり、長さを倍にするには、いかほどの力が必要か?」を意味しています。なお、図1のような引張変形に対する弾性率は別名でヤング率ともいわれます。高分子の場合、初期のカーブが直線で近似できる範囲が狭い場合が多く、原点での接線勾配から求める場合が多いです。
表1には、さまざまな素材の弾性率を挙げました。素材によって随分と値が変化しますが、金属やセラミックスの弾性率に比較して、高分子の弾性率が上は高弾性率繊維の3.5×1011Paから、下はゲルの105 Paまで6桁(百万倍!)も変わり得ることがおわかりいただけると思います。つまり、材料設計・選択・製造上の自由度が非常に高いことを意味しており、高分子が世の中に広く普及した理由の一つがここにあります。たとえば、衣料用繊維の弾性率は10 GPa程度を示すことが多いです。弾性率が高すぎると、ゴワゴワして着心地が悪く、繊維端が肌に刺さってチクチクして、とても服として着続けられません。一方、弾性率が低すぎると、繊維の腰がなくなって、デレーとして不格好な服になってしまいます。したがって、衣服の素材として、目的に合わせて、どのような繊維を選ぶのかを考える上で、弾性率は根本的に非常に重要な物性値になります。
 

次に、εが増加していくと、σが急減するところが現れます。この現象を降伏(yielding)といい、そのときの応力を降伏応力、ひすみを降伏ひずみと呼びます。ただし、σが増加しないのにεだけが増加する現象は必ずしも全ての材料に出現するとは限りません。さらに引張っていきますと、ついには破断します。このときの応力を破断応力(破断強度)、ひずみを破断ひずみ(伸び)と言います。破断ひずみも素材によってさまざまで、1%未満の場合も、数千%以上の場合もあります。ゴムは数百%伸びて、それでいながら、引張るのをやめると元へ戻る、高弾性という特徴をもった典型的な素材で、他の追随を許しません。なお、図の例では引張強度=破断強度になりますが、場合によっては降伏応力=引張強度になる場合があります。つまり、引張強度とは図中で一番高い応力値を指します。使用中に「材料がつぶれた!」のでは話になりませんので、もちろん引張強度は重要な物性になります。なお、本来は引張って行くと、刻々と断面積が変わっていきます。この影響を考慮して求める応力のことを真応力と言います。一方、初期の断面積で刻々の荷重を割ることで得られる応力のことを工学的応力と言います。普通は、特に断らない限り、工学的応力が用いられます。
この項の最後に、S-S曲線と横軸で囲まれた面積は、その素材を破壊するのに要するエネルギーを表し、タフネス(靭性)と呼ばれます。単位はJ/gあるいはJ/m3で、密度がわかれば両者は容易に換算できます。金属、セラミックスは弾性率や強度は高いですが、伸びが低いです。この場合には面積が狭くなって、つまり靭性は低いです。たとえば鋼鉄は2 J/gです。それに対して、絹繊維は70 J/gとなり、高靭性も高分子を特徴づける物性値です。


 

2. 万能試験機を使ってみよう


  • 図3 万能試験機

  • 図4 引張試験のための治具

図3には、高分子材料の力学試験を行う装置を模式的に示しました。左右2本のらせん状の溝を切った支柱を回転させることで、クロスヘッドと呼ばれる横に渡した梁を上下させる機構になっています。このとき、支柱の回転速度を変えることで、クロスヘッドの上下動の速度を制御できます。通常、0.125 mm/min~500mm/minの範囲で変えることができます。クロスヘッドには力検出器(ロードセル)が付属しています。ロードセルは目的に応じて取り換えることができます。その際、ロードセルのスペックを参照して、試料に依存して容量を注意深く適切に選択する必要があります。許容力以上の力が掛かればロードセルを破損してしまいますし、容量が大きすぎると、相対的に測定精度が落ちてしまいます。したがって、測定前にたとえば普通のプラスチックの引張強度だと数百MPa程度、繊維ですと1 GPa程度までですので、断面積を考慮して何Nになるのか、を予想して、余裕をもってたとえば最大荷重1kNのロードセルにしよう、50 Nのロードセルにしようと考えることが重要です。
さらに、治具(ジグ)を取り付け、治具に試料をセットすると、測定の準備が整います。なお、測定に先立って、一番大事なことがあります。薬品を使う化学実験だけではありません。力学試験を行うときには必ず、保護メガネをかけてください。引張破断したプラスチック試験片が飛んでくるかもわかりません。もう一度言います。保護メガネをかけてください。
図4は、引張試験のための治具です。このときに、後述のように、治具を取り換えることで、さまざまな試験が可能になりますから、図3の装置は「万能試験機」と呼ばれます。
ここではまず、引張試験を例にして解説を続けます。引張試験と一口に言っても、繊維状、フィルム状、シート状、ロッド状など引張る対象の形状はさまざまです。さらに治具に装着するときに、フィルム/シートの場合には、短冊の形の試料やダンベル(図5 a:中央部に幅狭の平行部を有する)の型に打ち抜いた試料、射出成形した試料を採用する場合があります。試料を装着するときには、治具に挟み込みます。そうすると挟んだ部分でどうしても試料をつぶしたりすることになって、最終的にはそこで試料切断が起こったりします。そうやって得られた値は、本来の破断強度よりも随分と低い値になってしまいます。したがって、中央部がくびれ、いつも中央から変形が始まるように、ダンベルという形状が採用されることになります。図4ではダンベルを治具に装着した様子を模式的に示しました。短冊状の試料の引張試験の場合は、治具で挟む部分を厚紙で補強することをお勧めします。
ダンベルの場合は断面積S=平行部の幅×厚みから求めます。その一方で、繊維、短冊の場合は、重量÷長さ÷密度で断面積Sを求めます。その方が試料のエッジのバリや、試料中のボイドの影響を受けずに済むからです。特殊な例として、繊維の場合にはデニール(9000mあたりの重量)、テックス(1000mあたりの重量)で太さを表し、紙の場合は坪量(g/m2)、連量(kg/1000枚)で間接的に厚みを表すことがあります。それに伴って、弾性率や引張強度の単位は通常はPa (パスカル)ですが、g/d (グラム/デニール)やg/dtex (デシテックス)等の単位が用いられる場合があります。
高分子鎖は主鎖の方向は原子が互いに共有結合で連結される一方、分子間の方向にはvan der Waals力などが働くにすぎず、極めて異方性が高いです。たとえば、押出成形で作製された試料では、一見等方的に見える材料でも、押出方向(MD(Machine Direction))とそれとは直角方向(TD(Transverse Direction))では力学物性が大きく異なります。したがって、試験を行う場合には引張る方向と試料片の向きの関係に気を付けることが重要になります。
論文の実験方法の項の執筆にあたっては、表2の条件を記すようにしてください。また、どのような測定に対しても同じことが言えますが、測定結果から物性値を評価するにあたっては、ともすれば付属ソフトで容易に数値として得られますが、鵜呑みにするのではなく、算出プロセスをきっちりと吟味することが重要になることは言うまでもありません。また、注意書きばかりが増えて恐縮ですが、最低5試料について試験を行って平均値を求めて、標準偏差も同時に記載報告するようにお願いします。
 
 

3. 万能試験機は他にも色々な試験に使えます



  • 図5  引張試験治具に装着する、さまざまな試験片


  • 図6  万能試験機を用いる、さまざまな試験

万能試験機の引張試験治具に、図5 a)のダンベル試験片以外にも、b)せん断試験片、c)180°剥離試験片を装着すると、異なる様式の接着試験が可能となります。さらに、引き裂き試験、結節強度試験、引掛け強度試験、突刺し強度試験などさまざまな力学試験が可能となります。
また、図6には、万能試験機を用いて実施するa) 曲げ試験、b) 圧縮試験を示しました。曲げ試験とは試料に曲げという独立した変形が生じているのではなく、曲がる内側では圧縮変形、外側では引張変形が生じており、均一材料ではちょうど半分の厚みのところでひずみが0になるという、複雑な変形場が生じますので解釈が難しくなります。しかしながら、たとえば太い角柱状の試料の場合などで両端を掴んで引張ることが難しい場合や、さらに実際の利用の場面で曲げの変形が生じることが想定される場合などには、曲げ試験が行われます。圧縮試験はゴムやゲルなどの場合に重要となります。
さらに、時間軸を入れれば、繰り返しの変形を与えることで疲労試験、高速変形(数m/s~数十km/s)を与えることで衝撃試験、一定ひずみ下での応力緩和試験、一定応力下でのクリープ試験ができます。 それらに加えて、万能試験機に恒温槽を付属させることで、温度軸を入れれば、これらすべての物性の温度依存性の情報が得られます。引張試験中の試験片を水や溶剤で満たせば、耐水性や耐溶剤性をチェックする上で重要となります。ほんとうに沢山の力学試験が可能で、「万能」というゆえんがこのあたりにあります。


 

4. さまざまな力学試験

高分子材料の力学試験には万能試験機を使用しない試験法がまだまだたくさんあります。たとえば、摩擦・摩耗はさまざまな場面で重要な役割を果たします。摩擦は接触する材料同士を相対運動させるときの抵抗力と言えますが、表面近傍の力学的性質以外にも、表面の凹凸などの構造の影響も受ける複雑な物性値です。ただ、靴底のように高い摩擦力が求められる場合も、軸受けの摺動部などで低い摩擦力が求められる場面でも、高分子材料は大活躍しており、摩擦の評価は重要になります。高分子の硬さも、接触変形するときの抵抗力を表しますが、剛球などの圧子を表面に押し込むやり方などの相違で、ロックウェル硬さ、ブリネル硬さ、ビッカース硬さ、デュロメータ硬さ、バーコール硬さなど、さまざまな手法、物性値が提案されています。また、圧子を押し込むのではなく、表面を引っ掻くと、引っかき傷のでき方から硬さを表すやり方もあります。耐スクラッチ性は表面の傷つきにくい特性を表すことから、フィルム、塗膜などで実用的に重要な特性です。
走査型プローブ顕微鏡ではカンチレバーの先端でさまざまなミクロ~ナノ試験が可能です。カンチレバーで表面を引っ掻けばナノスクラッチテスト、カンチレバーを振動させれば表面の粘弾性マッピングが可能になります。この項については、別途文献などを参照して詳細な解説を紐解いてください。

 
参考文献
  • タイトル通りの内容で、古い本ですが名著です。
    L.E.Nielsen、 小野木重治訳、“高分子と複合材料の力学的性質”、化学同人 (1983)
  • 高分子のさまざまな力学試験の詳細を勉強するには
    成澤郁夫、“高分子材料強度のすべて ~ビギナーからベテランまでの強化書~”S&T出版(2012)
  • 構造との関係を勉強するには
    和田八三九、“高分子の固体物性”、培風館 (1971)
  • さらに、最近の力学試験については、
    小椎尾 謙、高原 淳、“物性Ⅰ:力学物性”、高分子基礎科学 One Point 9 、共立出版 (2014)
    田中敬二、中嶋 健、“物性Ⅱ:高分子ナノ物性”、高分子基礎科学 One Point 10 、共立出版 (2017)
    をお勧めします。
  • 図のいくつかは、ここから引用しています。
    東 信行、松本章一、西野 孝、“高分子科学―合成から物性まで”講談社サイエンティフィック(2016)
 

 

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