偏光顕微鏡法(Polarized Optical Microscopy)

内部構造の分析法

執筆:岸野真之・宍戸 厚(東京工業大学)

偏光顕微鏡は、光学顕微鏡の一種であり、偏光を利用することで高分子の内部構造を評価できる
偏光顕微鏡(Polarized optical microscope)は、2枚の偏光板が備わっている光学顕微鏡です。この顕微鏡では、試料に直線偏光を入射した際の偏光状態の変化を光の明暗や色として観察できます。偏光状態の変化は分子配向や結晶構造を反映しているため、高分子の内部構造を評価することができます。さらに、温度調節機器と組み合わせることで相転移挙動の観察が可能です。偏光顕微鏡による観察は高分子の研究において欠かせない分析方法の一つです。

 

測定できること

複屈折 / 位相差 / 光軸 / 分子配向 / 相転移 / 結晶構造 / 液晶性


 

原理

1. 原理1)2)

光は、進行方向に垂直な面内で電場(磁場)が振動する波として表せます。電場の振動方向が規則的である光を偏光と呼びます。この偏光を生み出す偏光板が備わった顕微鏡が偏光顕微鏡です。偏光顕微鏡には、光源、試料ステージ、対物レンズ、接眼レンズなど一般的な顕微鏡の構造に加えて、試料ステージの上下に偏光子と検光子と呼ばれる偏光板が備わっています(図1)。一般的に、偏光子と検光子の透過軸を互いに直交させた状態(クロスニコル)で試料を観察します。光源から出た光は、偏光子により一方向にのみ電場が振動する直線偏光に変換されます。この偏光子を出た直線偏光がどのように進行していくのかを考えてみます。まず、試料を設置していない、または屈折率に異方性のない光学等方性の試料を設置した場合では、偏光子から出た直線偏光の偏光状態は変化せず、検光子を透過できません(図2a)。そのため、接眼レンズから観察した際の視野は暗くなります。次に、偏光方向に応じて屈折率が異なる性質(複屈折性)を有する、光学異方性の試料を設置した場合を考えます。入射する直線偏光の振動方向が試料の光軸と一致しているとき、入射光の偏光状態は変化せず、上記と同様に暗視野となります。一方、入射光の振動方向と試料の光軸が異なるとき、入射光は試料の複屈折性により二つの偏光成分に分かれます(図2b)。試料透過後の光は二つの偏光成分が合成されるため、試料透過前の直線偏光から偏光状態が変化します。偏光状態が変化することにより、光が検光子を透過して明視野となります。さらに、試料の複屈折性により二つに分かれた光の光路差(リタデーション)に応じて透過光は色づいて見えます。以上のように、偏光顕微鏡では光のコントラストにより高分子の内部構造を反映した複屈折性を評価することができます。
 

  • 図1 偏光顕微鏡

  • 図2 偏光顕微鏡の原理 (a)光学等方性試料,(b)光学異方性試料

干渉色と呼ばれる透過光の色づきについて説明します。試料を透過した光の強度Iは以下の式を用いて表せます。
 
代替文字

I0は入射光強度、θは偏光子の透過軸と試料の光軸がなす角度、Rはリタデーション、λは入射光波長です。sin2(2θ)が最小となる角度θ = Nπ/2(Nは整数)を消光位、sin2(2θ)が最大となる角度θ = π/4 + Nπ/2、を対角位といいます。Iには波長依存性があるため、透過光量の大きい波長と小さい波長が存在します。これにより、干渉色が発現します。例として、リタデーションが600 nmの試料を対角位で観察したときの干渉色を考えてみます。このとき、波長が400 nmでIは最大、600 nmでIが0になるため、干渉色は青紫色となります(図3)。干渉色を調べることで、試料のリタデーションを見積もることができます。
 
代替文字
図3 透過光強度
 
 

2. 複屈折の測定

複屈折は高分子の内部構造を評価する上で重要な物性です。分子鎖が不規則で等方的な状態であれば複屈折は生じず、分子鎖が配向している状態では複屈折が生じます。また、配向度合いに応じて複屈折の値も変化します。以上のように複屈折の有無や大きさを調べることにより、分子の配向状態や結晶構造を調べることができます。

 

2-1. 複屈折の判定

光軸に平行な屈折率をne、垂直な屈折率をnoとすると複屈折∆nnenoの差の絶対値で定義されます。nenoのどちらが大きいかは干渉色を利用することで判定できます。試料を消光位に設置した後、試料ステージを45°回転させた際の干渉色の変化を観察します。このとき、試料のリタデーションが小さいために干渉色が見られないか、わずかな黄色を示す場合(R < 250 nm)、鋭敏色検板を偏光顕微鏡に挿入することでリタデーションが530 nm加色されます。これにより、小さなリタデーション変化でも色の変化が明確になります。試料がne > noの複屈折を示す場合には加色されるため青色や緑色となり、no > neの場合には減色されるため橙色や黄色となります。このように干渉色の変化を利用することでnenoの大小を調べることができます。

 

2-2. 複屈折の測定

複屈折∆nの値は、リタデーションRを膜厚dで除することにより算出できます(∆n = R/d)。膜厚は膜厚計などにより測定し、リタデーションはベレックコンペンセータと呼ばれる光学素子を偏光顕微鏡に挿入することにより測定できます(図4)。ベレックコンペンセータは、方解石などの複屈折を有する材料を用いた測定装置です。側部についているダイヤルを回すことにより複屈折材料が傾き、その傾きに応じて光路長が変化するためリタデーションを調節できます。この原理を用いることにより、試料のリタデーションを相殺させるようにベレックコンペンセータのリタデーションを変化させ、そのときのダイヤルの目盛りを読み取ることで、リタデーションを測定できます。
 
代替文字
図4 ベレックコンペンセータ


複屈折測定の具体的な手順を示します。例として、一方向に分子が配向した、液晶高分子のフィルムを用います。まず試料を消光位の角度で試料ステージに設置します(図5a)。分子配向方向を確認するため鋭敏色検板を挿入し(図5b)、試料ステージを+45°(図5c)、-45°(図5d)回転させて干渉色の加色減色を確認します。分子配向方向を鋭敏色検板の光軸と直交させるため、減色が確認された+45°に試料ステージを固定します。鋭敏色検板をベレックコンペンセータに入れかえた後(図5e)、暗視野となるようにベレックコンペンセータのダイヤルを回してリタデーションを打ち消します(図5f)。そのときのダイヤルの目盛りから決定したリタデーションを膜厚で除することにより、高分子の内部構造を反映する複屈折を算出できます。
 
代替文字
図5 液晶高分子フィルムの偏光顕微鏡観察
 
 

3. 相転移挙動や結晶構造の観察

偏光顕微鏡により高分子の相転移挙動や結晶構造も観察することが可能です。相転移挙動は、試料をのせた温度調節機器を試料ステージに設置することで温度変化に伴う試料の変化を観察します。例として、液晶高分子の相転移挙動を示します。液晶相を示す温度では、試料の複屈折により対角位で明視野となります(図6a)。徐々に加熱し、液晶相から等方相へ相転移すると、液晶分子の配向が乱れることで複屈折が消失し、暗視野となります(図6b)。このように、光の明暗により相転移挙動を観察できます。また、結晶構造は複屈折の色鮮やかなテクスチャーとして観察できます(図7)。
 

  • 図6 相転移挙動 (a)液晶相,(b)等方相

  • 図7 結晶構造

以上のように、試料の複屈折により分子配向、相転移挙動、結晶構造など様々な内部構造の評価が可能な偏光顕微鏡は高分子や液晶などの研究において非常に重要な分析機器です。
 
参考文献
1) 坪井誠太郎,偏光顕微鏡,岩波書店,1959
2) 栗屋裕,高分子素材の偏光顕微鏡入門,アグネ技術センター,2001
 

 

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