走査型電子顕微鏡法(Scanning Electron Microscopy: SEM)

内部構造の分析法

執筆:藤ヶ谷剛彦(九州大学)

走査型電子顕微鏡法(Scanning Electron Microscopy: SEM)はナノ~マイクロメートルサイズの形状や表面凹凸を観察する手法
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)はナノ~マイクロメートルサイズの形状や表面凹凸を電子線の照射により可視化する顕微鏡で、ナノ粒子、マイクロ粒子、膜・基板表面、複合材料、ファイバー形状、空孔構造などを観察することができます。通常、高真空下での観察となりますが、光学顕微鏡より小さな形状を見ることができます。また、蛍光X線を検出する検出器を搭載することで、特定箇所の元素分析や元素マッピングも可能になります。

 

測定できること

表面凹凸観察 / 粒子形状観察 / 空孔構造観察 / 表面元素分析



 

原理

走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)は図1に示すように、主に電子を放出する電子銃、放出された電子を集束させる電子レンズ、収束された電子線を試料表面の観察領域にまんべんなく照射するための偏向器、試料から跳ね返る(散乱する)電子を検出する検出器からなります。代表的な電子銃としては熱電子型と電界放出型があり、熱電子型はタングステンフィラメントへの通電加熱で電子を放出させる方式で、電子線の細さや放出される電子の量において電界放出型より劣るものの、コストが抑えられるのが特徴です。一方、電界放出型は単結晶の針の先端への強い電場印加で電子を引き出す方式で、高価であるものの長寿命で電子線が細く、高分解能の観察に適しています。電子銃から放出された電子は電場により加速され電子レンズに入ります。電子レンズは光学顕微鏡の凸レンズのような役割を果たし、電場や磁場により加速電子を収束させます。1931年に磁場による電子レンズを発明したRuska(独)はその功績により1986年にノーベル賞を受賞しました。収束された電子は偏向器を用いて観察領域を一筆書きで塗るように端から端まで照射されます。この作業を「走査」と呼ぶのでこのタイプの電子顕微鏡を「走査型電子顕微鏡」と呼びます。試料に照射された電子は、試料表面内部に入射されますが、いくらかの電子は試料表面から散乱されます。表面から散乱する電子には入射した電子がそのまま跳ね返った「反射電子」と、もともと試料中にあった電子が叩き出されて出てきた「二次電子」の2種類があります。そのため、通常、それぞれの電子を検出する2つの検出器が搭載されています。検出器ではこれらの電子を検出し、電子の量に応じて画像の濃淡をつけることで表面の凹凸などを可視化します。
 
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図1 SEM装置の概要

表面から散乱する電子の中でも特に「二次電子」は凹凸に応じて表面から出てくる量が増減するため、電子線を走査しながら二次電子の量を測定することで試料の凹凸を反映した画像を得ることができます。切り立った角度の大きい場所から散乱する二次電子は多く、平坦な場所からは少ないため(エッジ効果という)、二次電子の量が多い領域ほど白く画像化すると白黒の濃淡で凹凸のあるような像になるという仕組みです。一方、「反射電子」は重い原子から多く跳ね返される性質があり、試料を構成する元素に応じた画像を得ることもできます。従って、例えば合金表面を反射電子像で可視化すると、表面が平坦であっても、原子番号の大きい元素の領域は明るく、小さい元素の領域は暗くなります。二次電子は反射電子よりもエネルギーが小さいために、試料の深く(おおよそ十数nm以下)から試料外部への脱出は難しく、より表面近傍の情報を反映しているとされています。二次電子を放出する際にはX線も放出されますが、そのX線がもつエネルギーを調べる(分光する)ことでどんな元素由来かを決定することができます。従って、試料表面が何元素を含むかがわかり、電子線を走査しながらX線のエネルギーを調べていくことで、特定の元素の種類や量の分布を可視化する(マッピングする)こともできます。このようにSEM測定では電子を試料に入射することで、試料表面の様々な情報を取り出すことができるのです(図2)。
 
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図2 入射電子の行方

実際の測定にはいくつかの注意点があり、その一つは、負の電荷をもつ電子を叩き込むため、電気伝導性が低い試料の場合に試料表面が負に帯電することで生じる「チャージアップ」という現象です。帯電した試料表面への電子の入射が不安定になるため、形状が歪んで見えたり、像に輝線が入ったり、立体感の無い像となってしまいます。このような問題は、試料表面を白金などの導電性のある物質でコーティングすることで解決します。また、電子線は高いエネルギーを持った粒子線であるため、高分子膜のような柔らかい試料の観察では照射部分が削れる可能性があることに注意すべきです。試料が削れると実体より小さくなるか、あるいはコンタミネーション(試料の汚染)が発生し、逆に実体より大きな像を観察してしまう可能性があります。このような場合、加速電圧を極力小さくする工夫が有効で、最近では低加速でも分解能の低下を抑える機能を搭載したSEMも市販されます。逆にこの電子線による削る効果を利用したのが電子線リソグラフィーであり、フォトリソグラフィー用マスク作製などで実際に利用されています。従って電子線リソグラフィー装置はSEMの装置と同じ機構で、電子線の走査パターンが自在に制御できる機構が備え付けられています。

SEM測定において検出する電子は大気中ではエネルギーを失ってしまうため、測定は高真空で行うのが条件で、従って、液中の試料は測定できず、固体試料であっても事前に十分に乾燥する必要があります。生体組織など水分を含む構造が重要な場合は、試料を凍結して測定するクライオシステムが装着できるSEMもあります。最近は電子銃を入射する入射系と試料系を隔膜で隔てる工夫で大気下または液中にある試料を測定できるSEMも市販されています。
 
近年の電子銃や電子レンズの高性能化による分解能の向上は目覚ましく、特に対物レンズは従来のアウトレンズ型から、高分解能なインレンズ型やセミインレンズ型が開発されています。透過電子像も同時同視野で撮像できる高機能なSEMや、傾斜像と組み合わせることで3次元像を構築できるSEMも市販され、これまでに得られなかった像も得られるようになりました。また、集束イオンビーム(FIB)を組み込んだFIB-SEMでは、断面をFIBで切削しながらSEMを連続測定し、3次元画像構築することで従来観察困難であった試料内部の立体構造の可視化もできるようになっています。一方、手軽さを追求するユーザー向けにコンパクトかつ試料導入が簡単なSEMもあり、使いやすさが年々進歩しています。SEMの小型化も進み、机に乗るような卓上SEMも各メーカーから続々と投入され、価格も手ごろなため、大学や研究機関にとどまらず、中学、高校の教育現場でも使われるようになってきています。筆者が学生の時は、SEM測定といえばチラつくブラウン管像と格闘してピント合わせにも苦労した記憶がありますが、現在はパソコン画面で見やすく、ピント合わせも楽になり、機能もユーザーインターフェースが飛躍的に向上した分析機器の一つです。
   

 

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