熱分析(Thermal Analysis)
例えば、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis: TGA)、示差熱分析(Differential Thermal Analysis: DTA)、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry: DSC)

物性評価法

執筆:斎藤 拓(東京農工大学)

結晶化、融解、ガラス転移、反応など、高分子の基本的な性質を簡便に評価できる
熱重量分析(Thermogravimetric Analysis: TGA)と示差熱分析(Differential Thermal Analysis: DTA)の同時測定により、融解や結晶化など重量変化を伴わない吸熱と発熱、熱分解や化学反応など重量変化を伴う吸熱と発熱を知ることができます。示差走査熱量(Differential Scanning Calorimetry: DSC)測定によりDTAから得られる結晶化温度、融解温度、相転移温度、ガラス転移温度、反応温度に関する知見に加えて、熱流曲線のピーク面積から熱量が求められ、熱量から結晶化度やphysical agingの評価などが可能になります。

 

測定できること

結晶化温度 / 融解温度 / ガラス転移温度 / 相転移温度 / 熱分解温度 / 反応温度 / 反応熱 / 結晶化度 / Physical Aging



 

原理

熱分析について

熱分析は「試料の温度を一定のプログラムで変化させながら、試料の物理的性質を温度あるいは時間の関数として測定する一連の技法の総称」と定義されています。熱分析には表1に示した5種類の手法がありますが、本項目には機械測定を除いた3種類の測定(TGA、DTA、DSC)を載せています。
 
代替文字
表1 熱分析の種類
 

TGA-DTA

熱重量分析(Thermogravimetric Analysis: TGA)と示差熱分析(Differential Thermal Analysis: DTA)を同時に行う測定法です。

TGAの測定では天秤を用いて試料と基準試料との重量差を求めます。天秤の上あるいは端に装着した試料台に試料と基準物質を載せて、熱分解などにより試料の重量が変化すると標準試料との重量差により天秤が傾き、それを元の釣り合った状態に戻すために必要な電流値などから重量差が求まります。例えば熱分解や反応により試料の重量が減少すると重量差がマイナスに変化して、その変化量から熱分解や反応により減少した重量を求められます(図1a)。

一方、DTAの測定では熱伝対を用いて試料と基準試料の温度差を求めます。反応や相転移などで熱の出入り(発熱、吸熱)が生じると、試料の温度が急激に変化するため、試料と基準物質との温度差の変化が検出されます。例えば吸熱では試料の温度が低下することで温度差がマイナスに変化して下に凸のピークが現れます(図1b)。
図1 TGA曲線とDTA曲線

一般に高分子に対してTGAとDTAは同時測定されています。試料と基準物質の温度測定のための熱伝対を装着した試料台がTGA測定用の天秤に装着されているため、TGAとDTAの同時測定が可能になっています。

表2にガラス転移、結晶化、熱分解などで考えられるTAG曲線とDTA曲線を示します。例えば、ガラス転移、相転移、結晶化が生じればDTA曲線に変化が生じますが、TG曲線には変化は生じません。それに対して、熱分解や化学反応であればTG曲線とDTA曲線の両者に変化が生じます。この違いから、TGAとDTAの同時測定を行うことで、どのような現象が生じたのかを推察できるようになります。
 
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表2 状態変化で考えられるTGA曲線とDTA曲線

TGA曲線とDTA曲線からガラス転移、結晶化、熱分解などが生じる温度を知ることができます。TGA曲線における重量変化が開始する温度から分解開始温度を求めることができ、それは耐熱性の評価に用いられています。また、試料が混合物であれば、全体の試料重量に対する試料の減少量から、混合物の重量分率の評価も可能になります。

 

DSC

示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry: DSC)では試料と基準物質に対する入力エネルギーの差を求めます。入力エネルギー差の求め方の違いにより、DSCには熱流束DSC(定量DTA)と入力補償(熱補償)DSCの2つの種類があります。

熱流束DSCの基本的な測定原理はDTAと同じですが、熱流束DSCでは試料および基準物質への熱の出入りがヒートシンクから熱抵抗体を介して行われるという違いがあります。熱流束DSCでは試料と基準物質のための熱源は同一で、一定の温度に保たれたヒートシンクから熱抵抗体を介して試料と基準物質に熱が伝えられ、それぞれの熱抵抗体中の温度差が測定されます(図2a)。この温度差が、ヒートシンク-試料間およびヒートシンク-基準物質間に流れる熱流の差になるため、基準物質の値で較正して熱流(heat flow:単位はW)が求められます。熱流束型DSCでは熱容量の大きなヒートシンクを用いるためベースラインの安定した測定ができるとされています。

入力補償DSCは熱容量の大きいヒートシンクを持たず、試料と基準物質を別々のヒーターで加熱します(図2b)。試料と基準物質の温度が同じになるように熱源に供給されるエネルギーが調整され、調整されたエネルギーが熱流として求められます。入力補償型DSCでは熱容量の大きなヒートシンクを用いないため、高速な温度制御が可能です。
 

  • (a)熱流束DSC

  • (b)入力補償DSC
図2 DSC装置の概略図

反応や相転移により吸熱が生じて試料の温度が急激に低下すると、熱流束型DSCではマイナスの温度差として検出され、入力補償型DSCでは温度差をゼロにするために試料にプラスのエネルギーが供給され、マイナスの温度差あるいはプラスのエネルギー量が熱流の値に較正されて求められます。
 
DSC測定により、表2に示したDTA曲線と同じ曲線が得られ、DTAと同様にガラス転移、結晶化、融解、反応などが生じる温度を知ることができます。それらに加えて、熱流曲線のピーク面積から吸熱や発熱の熱量を求めることができます。例えば、結晶化させた高分子を昇温すると結晶の融解により吸熱ピークが現れます。結晶化度が高いほど吸熱ピークが大きくなるように、吸熱ピークの面積は結晶化度と関係するため、吸熱ピークから融解熱を得て、データベース上にある完全結晶の融解熱との比を求めることで結晶化度が得られます。

DSC測定により結晶性高分子に対して冷却過程における結晶化を追跡すると、発熱によるピークが現れ、ピークが生じる温度から結晶化が生じる温度を知ることができます。この結晶化温度は結晶化速度が速いほど高温にシフトしますので、結晶化速度の尺度として用いられています。

高分子ガラスをTg以下で熱処理すると、非平衡状態から平衡状態への緩和が生じることで、 熱処理時間の増加に伴い体積が減少(緻密化)して、延性から脆性へと材料物性の低下が見られることがあります。この緩和現象はエンタルピー緩和あるいはphysical agingと呼ばれています。physical agingさせた試料をTg付近まで昇温すると若返り(rejuvenation)によりエンタルピーの回復が生じて(図3aのCからDへの矢印)、エンタルピーの急激な回復に伴い吸熱ピークがDSC曲線に現われます。吸熱ピークの面積はaging時間が長くなるに伴い大きくなり、ピーク面積の増大からphysical agingの進行の度合いがわかります(図3b)。このようにphysical agingの進行を明確にできる測定装置はDSC以外にはありません1)
代替文字
図3 physical agingとDSC曲線
(a)高分子ガラスのエンタルピーの温度依存性
 

温度変調DSC1)

従来型のDSCでは時間に対して一定の速度で温度を変化させているのに対して、温度変調DSCでは周期的に昇温と冷却が繰り返される温度変調が加えられます。温度変調DSCでは周期的な温度変調を印加させるため、modulated DSC、 oscillating DSCあるいはdynamic DSCとも呼ばれています。温度変調DSC測定は、従来型のDSCに温度変調を印加させるためのプログラムユニットと冷却ユニットを付け加えることで可能になります。

転移や反応のDSC曲線には温度変調に対して同じ位相で追従できる速い応答成分(可逆成分)と追従できないために位相がずれる遅い応答成分(非可逆成分)が含まれます。得られた熱流曲線をフーリエ変換すると可逆成分が求められます。熱流曲線を移動平均法により平均化させることで従来のDSC曲線と等価な全熱流曲線が得られます。また、全熱流曲線と可逆成分の差を求めることで非可逆成分が得られます。ガラス転移は可逆成分に、結晶化による発熱、化学反応による発熱や吸熱は非可逆成分に現れるように、温度変調に対する応答がそれぞれの現象により異なるため、温度変調DSCを用いることで種々の現象の分離評価が可能になります。

分離評価の例として熱硬化性樹脂の反応があります。熱硬化性樹脂の反応過程とガラス転移の両者を論じるためには2つ以上の装置を用いて、それぞれを別々に求める必要がありました。温度変調DSCを用いれば反応による吸熱が非可逆成分に、ガラス転移が可逆成分に現れるので、熱硬化性樹脂の硬化反応過程における反応とガラス転移の分離評価が可能になります。それぞれを1つの装置で同時測定できることから、反応過程とガラス転移の両者に対する速度論的な議論が可能になります。また、反応による吸熱ピークがガラス転移と独立に得られるので、反応熱を正確に求めることができます。
代替文字
図3 physical agingとDSC曲線
(b)PMMAのDSC曲線のaging時間依存性
 
図3(b)に示されたphysical agingさせたPMMAのDSC曲線において、急冷試料では単一のガラス転移が見られますが、agingにより2つのガラス転移が出現しているように見えます(熱処理時間10分-2時間)。それを温度変調DSCにより可逆成分(ガラス転移)と非可逆成分(吸熱ピーク)に分離することで、2つのガラス転移と見られた曲線は、幅広いガラス転移(図4a)にそれよりも低温に出現するブロードで小さい吸熱ピーク(図4b)が重なっていることによることが明らかにされています。  

  • (a)可逆成分

  • (b)非可逆成分
図4 PMMAの分離された温度変調DSC曲線のaging時間依存性
 
参考文献
1) 斎藤拓,ぶんせき,6,235-240 (2019)
 

 

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