高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography: HPLC)

分離・精製方法

執筆:中村 洋(京都大学)

極性の違いを利用して異種ポリマーの混合物、組成の異なるコポリマー、オリゴマー等を分離する
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法によりカラムとの相互作用の差を利用して、極性の異なる低分子量物質を分けることができます。この方法を高分子に応用することにより、極性の異なる異種ポリマーや極性の異なる多種類のモノマーからなるコポリマー等を分離、分析することができます。

 

測定できること

ランダムコポリマーの組成分析 / ブロックコポリマーの組成比解析 / オリゴマーの分離 / 異種ポリマー混合物の分析



 

原理

カラムクロマトグラフィーにおいては、細い管状の容器にカラム担体と呼ばれる直径100μm以下のシリカゲルビーズを詰め、溶媒(移動相と呼ぶ)を一方向に流します。ここに少量の溶質(分析する試料)を加えますと、ビーズと相互作用しない成分は早く流出し、ビーズとの間に引力的な相互作用が働く成分は遅く流出します。シリカゲル表面に極性基がついていると、極性の高い分子が相互作用し、遅れて流出します。このようにして極性の異なる分子を分離するのがクロマトグラフィーの原理です。

ビーズの粒径を小さくすることで、ビーズの表面積を増やし、すき間も少なくすることができるので、より分離効果を高めることができます。しかしながら、溶媒が流れる速度が落ちるので、ポンプを使って液を送らなければならなくなります。圧力も上がるので、ポンプ、検出器、カラム、接続チューブ、コネクターを含むすべての機器をそれに耐える仕様にしなければなりません。このようにして、効率を高めたのが高速(高能率)液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography: HPLC)です。

HPLCの方法として、順相と言われる条件と逆相と言われる条件があります。順相条件においては表面に-OH基などの極性基がついたシリカゲルビーズが用いられ、極性の低い溶媒が使われます。こうすることで、極性の高い溶質分子がビーズ表面の極性基と相互作用し、極性の低い溶質分子が先に出てくることになります。一方で逆相条件では表面にアルキル鎖などの非極性基がついたシリカゲルビーズが用いられ、極性の高い溶媒が使われます。この場合は、極性の高い分子が先に流出し、ビーズ表面と相互作用する極性の低い分子が遅れて出てきます。

HPLCのシステムは専用のポンプ、オートサンプラ―(または注射器用のインジェクションバルブ)、カラム、検出器からなります。HPLCに使用される検出器としては紫外吸収(Ultraviolet: UV)、屈折率(Refractive Index: RI)、蒸発光散乱(Evaporative Light-Scattering Detection: ELSD)等があり、用途によって使い分けられます。質量分析器(Mass Spectrometry: MS)を接続することもあります。UVは検出したい溶質に吸収帯があり、溶媒が吸光しないという制約があり、RIは溶質と溶媒の屈折率差が大きくなければならず、溶媒グラジエント法など溶媒の屈折率が漸次変化するような場合にも使えません。ELSDはこれらの制約はありませんが、溶媒が揮発性である必要があります。

HPLCは低分子量物質の分離、分析に欠かせない方法ですが、高分子にも応用されています。特に、極性の異なる異種ポリマー混合物や極性の異なる多種類のモノマーからなるコポリマー、オリゴマー等を分離、分析する際に用いられます。通常、単一の溶媒条件では十分な分離が得られず、溶媒組成を徐々に変化させる溶媒グラジエント法、温度を変化させていく温度勾配法などが用いられます。以下にHPLCを用いた高分子の代表的な分離例を挙げます。

 

ポリマー混合物の分離例

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図1 HPLCによる高分子の分離例1)(PEHA: poly(2-ethylhexyl acrylate), PBA: poly(butyl acrylate), PEA: poly(ethyl acrylate), PMA: poly(methyl acrylate), PBMA: poly(butyl methacrylate), PEMA: poly(ethyl methacrylate), PMMA: poly(methyl methacrylate)).

図1にポリアクリル酸混合物の分離例1)を示します。移動相として、toluene / 2-butanoneの混合物を使用しており、toluene : 2-butanone = 98 : 2 (v/v)から0 : 100 (v/v)まで、溶媒組成を変化させています。カラムには多孔性のシリカゲル粒子が使われています。はじめは溶媒の極性は低く、流出時間(図中では流出体積Vg)とともに極性が高くなります。左側の図では異なる置換基をもつポリアクリル酸が、右側の図では異なるアルキル置換基を持つポリメタクリル酸が効率よく分離されていることを示しています。短時間側ではアルキル基が大きく、極性が低いものが、長時間ではアルキル基が小さく、極性の高いものが流出しており、順相条件による分離です。高分子の重量平均分子量は10万~30万程度です。検出器にはELSDが使われており、溶媒組成の変化に関わらずベースラインがほとんど変化していません。

 

コポリマーの分離例

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図2 HPLCによるポリ(styrene-stat-methyl methacrylate)の分離例2). 時刻0以降(右から左へ時間が経過)の4つのピークが組成の異なるコポリマーからのものであり, 短時間側からスチレン含量が約20%, 約50%, 約75%, 約85%のコポリマーに対応する.

図2にスチレンとメタクリル酸メチル(MMA)のランダムコポリマー(poly(styrene-stat-methyl methacrylate))の分離例2)を示します。検出器にはUV吸収計が用いられています。下の曲線で時刻0以降(時刻は右から左へ経過している)に組成が異なる4つのコポリマーに対するピークが観察されます。溶媒にはacetonitrile (ACN) / tetrahydrofuran (THF)混合物が使われており、上のグラフで示すように溶媒組成をTHF 5%から55 %まで変化させています。カラムには極性の低いオクタデシル基によって表面修飾されたシリカゲルが使われています。短時間側では極性の低いスチレン含有量の多いコポリマーがカラムに保持され、極性の高いMMA含量の多いコポリマーが先に流出します。THF含有率が高くなるとともに溶媒の極性が低下し、スチレン含量の少ないポリマーから順次流出する逆相条件による分離です。あらかじめ溶媒組成とMMA含量の関係を調べておけば、MMA含量が未知のpoly(styrene-stat-methyl methacrylate)試料の流出時間よりそのポリマーのMMA含量を知ることができます。
 
参考文献
1) T. H. Mourey, J. Chromatgr. 357, 101-106 (1986).
2) S. Teramachi, A. Hasegawa, and K. Motoyama, Polym. J. 22, 489-496 (1990); 寺町信哉「共重合体」、新高分子実験学1、高分子実験の基礎-分子特性解析-3.6章、高分子学会編、共立出版(1994).
 

 

分析例・プロトコール

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