フローサイトメトリー(Flow Cytometry)

生体関連分析法

執筆:山本雅哉(東北大学)

散乱光や蛍光に基づき流路内の細胞1つずつの情報を測定する方法
フローサイトメーターは、乱れの含まない流れ(層流)中で細胞を測定する装置です。つまり、細胞に傷害を与えないで流すための緩衝液(シース液)中で細胞1つずつを一列に並べ、レーザー光を当てて散乱光や蛍光を測定することにより細胞1つずつの情報を取得します。その用途は様々ですが、例えば、DNA量に基づく細胞周期評価、蛍光標識抗体を用いた細胞表面マーカー解析、蛍光標識高分子などの細胞内導入解析、特定細胞の分取などがあります。

 

測定できること

細胞計数 / 細胞の大きさ / 細胞周期 / 細胞表面マーカー解析 / 細胞分取 / 細胞内導入解析





 

原理

フローサイトメーターとは?

フローサイトメーター(FCM)は、ラミナフロー(Flow)中で細胞を測定する装置(Cytometer)です。つまり、細胞1つずつをシース液中で一列に並べ、レーザー光を当てて散乱光や蛍光を測定することにより細胞1つずつの情報を取得します。その用途は様々ですが、例えば、DNA量に基づく細胞周期評価、蛍光標識抗体を用いた細胞表面マーカー解析、蛍光標識高分子などの細胞内導入解析、特定細胞の分取などがあります。近年、FCMによりエクソソームなどの極めてその粒径の小さい細胞外微粒子(Extracellular Vesicle: EV)を解析する研究例もありますが、ここでは細胞に限定して紹介します。
 

FCM:アナライザーとセルソーターとに大別

FCMは、細胞の解析に特化したアナライザーと特定の細胞を分取するセルソーターとに大別されます(図1)。ここでは一般名であるFCMと称しますが、フローサイトメトリー装置の登録商標FACSTM(Fluorescence Activated Cell Sorter)が、発音しやすいことからフローサイトメトリーのほぼ同義語として広く利用されています。近年、コンピューターやレーザーの性能向上は目覚ましく、高速化、小型化、簡便化が進み、安価で卓上型のアナライザーも多数市販され、容易に利用できるようになりつつあります。一方、一般的な青、赤、紫のレーザーの他に、緑やUVを加えた計5本のレーザを搭載した上位機種もあり、毎秒40,000イベントの速さで最大20チャネルのパラメーターを解析できるアナライザーも市販されています。一方、セルソーターでは、ノズルを振動させることにより液滴を形成させ、目的の細胞が入った液滴のみ荷電させることによって、目的の細胞を含む液滴の進行方向を変更し回収することができます(液滴荷電方式)。毎秒30,000イベントの速さで最大20のパラメータに基づいて細胞を分取できるセルソーターも開発されており、細胞の選別など、基礎研究から再生医療・細胞治療などの臨床応用まで利用が進められています。
 
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図1 FCM:アナライザーとセルソーター
 

細胞生物学研究におけるFCM

細胞生物学研究おいて、フローサイトメトリーは、主に、蛍光標識抗体などを用いて染色した細胞を解析あるいは分取することに用いられます。同時に、生細胞ならびに死細胞を識別することもできます。生細胞は、疎水性・非蛍光性・細胞膜透過性をもつCalcein-AMなどの分子が細胞内のエラスターゼにより水溶性・蛍光性・細胞膜不透過性に変化することにより標識できます。一方、死細胞は、生細胞の細胞膜は透過せず死細胞にのみ取り込まれ、核内のDNAにインターカレートすることにより蛍光を示すプロピジウムイオダイド(PI)などにより標識できます。このため、フローサイトメトリーにおける細胞識別は、使用する蛍光分子の特性(励起波長・蛍光波長と蛍光波長分布・1分子あたりの蛍光強度など)や蛍光分子で染色する生体分子の濃度や発現量に大きく影響されます。
 

FCMにおける散乱光の情報

細胞にレーザー光が照射されると、標識や内包させた蛍光物質からの蛍光に加えて、細胞そのものによる散乱光が検出されます(図2)。図2に示すように、前方散乱光(Forward Scatter:FSC)と側方散乱光(Side Scatter:SSC)とがあり、検出される情報には、それぞれ細胞の大きさならびに細胞内部構造の複雑さが反映されていますが半定量的です。FSCとSSCのXYプロットに基づき、細胞塊やゴミを含まない測定対象となる細胞集団を選択することができます。

 
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図2 散乱光の経路と実験例
 

FCMによる細胞生物学研究の実験スキーム

フローサイトメトリーによる細胞生物学研究の実験スキームを表1に示します。まず、抗体・蛍光色素の割り当てを計画します。すなわち、目的とする分子の発現量、抗体の力価、1蛍光分子あたりの蛍光強度、蛍光波長分布の重なり合いによる蛍光漏れ込み、色数などに応じて、使用する蛍光標識抗体の組み合わせを検討します。レーザー波長、蛍光フィルター、検出器数により使用可能な色数が決まります。次に、細胞の染色と必要なコントロールサンプル(無染色、単染色、3つ以上の蛍光色素を使用する場合、1色の蛍光色素を除いた染色)を用意します。染色後、メッシュを通し、詰まりの原因となる細胞塊などを除去します。この間、標準ビーズなどを用いてFCMを最適化します。上記の準備が完了すれば、サンプルの解析あるいは分取を行うことができます。
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FCMを用いたマルチカラー解析

波長の異なる蛍光色素やレーザーの組み合わせにより、複数の分子を基準に目的とする細胞を精密に同定することができます。このマルチカラー解析では、適度な染まり具合となるように、目的タンパク質の発現量、抗体の力価、1蛍光分子あたりの蛍光強度、蛍光波長分布の重なり合いによる蛍光漏れ込みなどに基づいた色素選びが重要です。蛍光標識の選択(パネルデザイン)の詳細については、成書(ラボ必携 フローサイトメトリーQ&A・戸村道夫 編、羊土社、2017年など)が参考になります。また、パネルデザインに関する情報は、各メーカーのWebサイトから入手できます。これらを参考にしながら蛍光色素や抗体を選択します。一般的には、3レーザーで6色+死細胞染色は容易ですが、これから1色ずつ増える度に組み合わせが複雑になってきます。このため、6色程度の色数のサンプルを複数作製することによって、色を増やした場合と同様の結果が得られる実験系を組むことが勧められています。
 

高分子研究におけるFCM

高分子研究に関連したフローサイトメトリーの用途は、例えば、高分子キャリアを用いた細胞内デリバリーや細胞機能イメージングなどにおける定量解析などです。蛍光標識した高分子キャリアや細胞機能イメージングのためのモレキュラービーコンや蛍光タンパク質などを検出対象とし、一定以上の蛍光強度をもつ細胞を計数します。これにより、高分子キャリアの特性や遺伝子発現などを評価することができます。例えば、図3に蛍光標識されたポリスチレン微粒子を貪食細胞であるマクロファージの細胞株の一つであるJ774.1細胞の培養系に添加1日後のフローサイトメーターでの解析結果を示します。蛍光標識されたポリスチレン微粒子がマクロファージに取り込まれ細胞死が誘導されたことがわかります。
 
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図3 蛍光標識ポリスチレン微粒子のマクロファージへの取り込み
   

 

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