水晶振動子マイクロバランス法(Quartz Crystal Microbalance: QCM)

生体関連分析法

執筆:星野 友(九州大学)

水晶振動子マイクロバランス法(Quartz crystal microbalance法: QCM法)は、基板表面への分子吸着や吸着速度を定量できる
水晶振動子マイクロバランス法(Quartz crystal microbalance法: QCM法)は、センサー表面への物質の吸着量をngレベルでリアルタイム定量できる手法です。吸着の過程を解析することにより、分子間の相互作用の強さである結合定数や相互作用の速さである結合速度定数を算出することが可能です。また吸着物質の粘弾性の解析可能な装置も販売されています。対象は低分子から蛋白質、核酸、高分子薄膜に至るまで、ある程度質量のある物質であれば全て測定可能です。

 

測定できること

分子間相互作用測定 / 結合(解離)定数 / 結合(解離)速度定数 / 薄膜膜厚 / 表面吸着量 / 表面吸着物質粘弾性



 

原理

質量変化計測の原理

水晶振動子とは、水晶の結晶を極薄い板状に切り出した切片の両側に金属薄膜を成膜した構造をしたもので、それぞれの金属薄膜に交流電場を印加すると、ある一定の振動数 (共鳴振動数)で振動する性質を示すものです。金属薄膜上にナノ・グラム程度の物質が吸着するとその質量に応じて共鳴振動数が減少することから、微量天秤として利用することができます。そのため、このような方法はQCM (Quartz-Crystal Microbalance:水晶振動子マイクロバランス)法とも呼ばれています。

水晶振動子は様々な振動モードが知られていますが、QCM法としては一般的に図1(a)のような厚み滑り振動(Thickness shear mode)が利用されています。水晶振動子が一定の振動数で発振し続けるとき、水晶板の金属薄膜上に存在する物質の質量に依存して図1(b)のように振動数が変化します。この振動数変化が、金電極上の物質の質量に比例していることが1950年代に報告されました1)。振動数の変化量と付着物質の質量との関係は、Sauerbrey式と呼ばれる式(1)で表されます。
 

  • (a)

  • (b)
図1 (a)水晶板の厚みすべり振動の模式図
(b)水晶振動子上に物質が吸着した場合の波長の変化の模式図
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この式は振動数ΔFが質量Δmに比例することを示しています。また、基本振動数f0が大きいほど質量変化に対してΔFは大きくなり高感度となることが理解されていますが、基本振動数f0は水晶板の厚みに依存することから、水晶板をより薄くするほど質量変化∆mに対し高感度となります。例えば、厚さ180 µmで9 MHz、60 µmで27 MHz、15 µmで110 MHzの基本振動数が得られます。より高い基本振動数の水晶振動子を用いることでより高いシグナルが得られるが、当然環境ノイズによる影響も大きくなり、さらに薄い水晶振動子はハンドリングが容易でないことから、一般的に5~30 MHz程度の基本振動数を持つ水晶振動子が用いられることが多い。式に-がついていることから、質量増加に伴って振動数は減少することが分かります。ここで、ρq = 2.648 g cm-3、µq = 2.947×1011 dyn cm-2とすると、基本振動数9 MHzの水晶振動子の質量感度は5.45 ng cm-2 Hz-1、基本振動数27 MHzの場合の質量感度は 0.605 ng cm-2 Hz-1となります。

QCM法の測定原理の詳細については、多くの総説が出ているので参照されたい2)3)

 

測定

QCM法においては、測定方法は大きく分けて2通り、周波数カウンターで共振振動数を直接測定する方法とネットワークアナライザ等を用いて共振点付近の周波数特性を得る方法です。前者で得られるパラメータは共振振動数のみであるが、後者では共振振動数以外の情報も得ることができます(後述の粘弾性解析参照)。

QCM法は、リアルタイムでの測定が可能なことが特徴です。静的な吸着量の定量だけでなく、吸着の過程を動的にとらえることができます。このことは吸着速度や解離速度の定量に有効なだけでなく、酵素反応のような吸着と反応が連続的に起こる反応でも詳細に解析することが可能です。リアルタイム測定のサンプリングレートは用いる装置にも依存しますが、測定ノイズとのトレードオフであるため、むやみに短いサンプリングレートを用いることは適切ではなく、測定の目的から必要なサンプリングレートを判断して選択すべきです。一般的には0.5~10secの範囲が良く用いられます。

QCM法の大きな特徴の一つは測定媒体を選ばない事であり、気相中4)、液相中5)6)7)、真空中8)または超臨界流体中9)の測定事例が報告されています。ただし水溶液中などの粘性の高い媒体中では厚み滑り振動が減衰しやすく、安定な測定を実施するにはセンサー構造、電気回路、温調などに多くのノウハウが必要であるため、その点が考慮されている市販の装置を用いることが望ましいです。

 

解析

市販の多くの測定装置では、水晶振動子の振動数をリアルタイムでモニタリングし、通常1秒1点の振動数データを測定ソフト上でリアルタイム描画します。振動数減少はセンサー表面への物質の吸着量の増加を示し、振動数上昇はセンサー表面への物質の吸着量の減少、すなわち物質の解離を示しています。ここで生体内の分子間相互作用を定量化したい時、よく利用されているパラメータのひとつとして解離定数 (Kd)と結合定数 (Ka)があります。この値は、2種の分子間相互作用における親和性の強さを評価するのに用いられており、強い相互作用のほうが生体内で「起こりやすい」と言うことが出来ます。


QCMにおける測定では、相互作用を解析したい分子のどちらかをセンサー表面にホスト分子として固定化し、溶液中にゲスト分子として片方の分子を添加することで相互作用に伴うセンサー表面の質量の増加を振動数変化として測定します。例として以下の式 (2-1)であらわされる1:1相互作用をするAとBという分子の反応を考えます。
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この時、解離定数は式 (2-2)で、結合定数は式 (2-3)で表すことが出来ます。ここで[A]、[B]および[AB]は相互作用が平衡に達した時のA、B及び複合体ABの濃度とします。
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解離定数は結合定数の逆数になり、単位はそれぞれ M (解離定数)と M-1 (結合定数)になります。親和性が非常に強い相互作用の場合は、複合体 AB の濃度が高くなるので、式 (2-2)における[AB] の値が大きくなり、Kd は小さくなります。すなわち、Kd が小さいほど強い相互作用、大きいほど弱い相互作用と言えます。
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図2 センサー表面に固定化された分子Bに対して結合する分子Aの模式図
 
実際の実験においては、各ゲスト分子濃度[A]0の時の飽和吸着量ΔFを算出し、それを横軸[A]0、縦軸ΔFとしてプロットします。この得られたプロットを式 (2-4)を用いて、曲線フィッティングを行いKdとΔFmaxの組み合わせを導き出すことが可能です(図3)。
 
代替文字
 
ΔF = ΔFmax/2の時、式 (2-4)から[A]0 = Kdとなる事からKd値はΔFmax/2の結合量を示す時の溶液中ゲスト分子濃度と言い換える事ができます。
図3 相互作用解析の典型チャート概念図と吸着量の濃度に対するプロット

この他、相互作用の速度解析10)、酵素反応11)、他因子が関与する複雑な反応12)、蛋白質凝集反応13)の解析を行っている事例がありますが、詳細は文献を参照されたい。


 

測定事例

前述したように表面上に吸着すれば、その吸着質量に比例して検出可能であるためある程度の質量をもつ物質であれば測定可能であります。一般にQCMのセンサー表面は金電極であるためその金電極に対する蛋白質や高分子の吸着を測定することも可能ですが、真空蒸着法、スパッタ法、スピンコート法などで電極上に他の金属14)や金属酸化物15)、高分子薄膜16)を形成してから測定する事例も多い。また金表面とS原子との相互作用を利用してアルカンチオールを用いて自己集合単分子膜(SAM)を形成し、様々な官能基を表面に提示させた後に目的の分子を固定化することも多く行われています。その場合はカルボン酸を提示したSAMを形成し、蛋白質のアミノ基と反応させて固定化する事例が最も多い17)。また、表面への非特吸着を抑制するためにエチレングリコールを持つ表面を使用する事例もあります17)

測定対象分子はタンパク質以外でも核酸18)、糖類19)、高分子積層膜20)、高分子ナノパーティクル21)、脂質22)など非常に多くの報告があります。


 

粘弾性解析

市販の一部のQCM装置では吸着量測定だけではなく、吸着物質の粘弾性解析が可能な装置があります。水晶振動子の共振点付近で振動数をスキャンし、アドミッタンスを測定しアドミッタンスの実数成分であるコンダクタンスをプロットすると図4(右)のような共振曲線が得られます。この共振曲線は気相中のような振動減衰が少ない媒体では鋭敏な曲線となりますが、水溶液中では振動が大きく減衰され鈍った曲線となります。詳細は文献23)24)を参考にしていただきたいが、この共振曲線から振動の質に関するQuality factor(もしくは逆数のDissipation factor)が得られます。吸着物質が一般の剛性体であれば吸着の過程でそれらのパラメータは変化しませんが、吸着物質が粘弾性体であり、吸着物質における振動エネルギーの損失が大きいと変化がみられます。すなわち、水晶振動子の共振曲線の変化を測定することで吸着質量に加えて吸着物質の粘弾性測定が可能となります。この原理を用いて、タンパク質の粘弾性解析を行った事例25)、表面でのポリマーブラシの粘弾性解析を行った事例26)等多数文献が報告されています。
図4 水晶振動子のアドミッタンス円線図および共振点付近でのコンダクタンスの概念図27)
 
参考文献
1) Sauerbrey, G. Z. Phys. 1959, 155 (2), 206–222. https://doi.org/10.1007/BF01337937.
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