紫外・可視分光法(Ultraviolet-Visible Absorption Spectroscopy: UV-VIS)

分子構造の分析法

執筆:町田真二郎(京都工芸繊維大学)

UV-Vis吸収は、試料が吸収する光の波長と、その吸収光量を計測する手法
UV-Vis(紫外可視)吸収測定では、試料に紫外線もしくは可視光を照射し、そのとき照射波長を連続的にスキャンしながら、試料が吸収する光量(吸光度)を測定します。測定結果は、横軸に波長、縦軸に吸光度をプロットしたグラフ(吸収スペクトル)として得られます。UV-Vis吸収測定は、その吸収極大波長から測定対象の電子準位間のエネルギー差を求めるほか、さまざまな物質の定量分析に広く用いられています。

 

測定できること

試料が吸収する光の波長 / 試料が吸収する光量 / 溶質の濃度 / 反応速度 / 膜厚 / 配向状態 / 会合状態



 

原理

UV-Vis(紫外可視)吸収測定では、試料に紫外線もしくは可視光を照射し、そのとき試料を透過する光量を測定することで、試料が吸収する光量を測定します。多くの場合、UV-Vis光のエネルギー領域は、電子準位間のエネルギー差に相当します。UV-Vis吸収測定装置の模式図を図1に示します。UV-Vis吸収計(分光光度計)には、大きく分けて単光束(シングルビーム)と複光束(ダブルビーム)の二種類があります(図1には複光束の装置図を示します)。
 
代替文字
図1 UV-Vis吸収測定装置図

単光束の場合、より小型で安価に入手できる反面、光源のゆらぎなどによる影響を除くことが困難となるので、高い精度が要求される測定では、複光束の装置を使用することが望まれます。光源としては、多くの場合、紫外領域に重水素ランプ、可視領域にハロゲンランプが用いられます。近年では、キセノンランプやキセノンフラッシュランプを光源とする装置も市販されています。光源からの光は、回折格子分光器で単色光に分光された後、試料に入射し、その透過光の強度Iを検出します。単光束の装置では、測定試料とは別に、試料を置かないか、溶媒(もしくは空セル)のみを試料としたときの透過光強度I0を測定しておきます。一方、複光束の場合、参照側を透過した光の強度I0を同時に検出します。検出器には、通常Siフォトダイオードもしくは光電子増倍管が用いられますが、近赤外領域用にPbSやInGaAsフォトダイオードが用いられる場合もあります。吸収計内部では、検出した透過光強度から、試料の透過率T=I/I0(0≦T≦1)および吸光度A = −log(I/I0) = −logTを算出します。吸光度Aに関しては、Lambert-Beerの法則として知られる式:A = −log(I/I0) = −logT = ε c lが成り立ちます。ここでεはモル吸光係数とよばれる波長に依存する試料に固有の定数であり、cは試料の濃度、lは光路長です。εの単位はSI単位系ではm2 mol–1となりますが、化学および生物学分野では、通常用いられる1 cm角の溶液セルと試料溶液のモル濃度(mol L–1)から算出しやすいように、L mol–1 cm–1が慣用的に用いられています。

一般にUV-Vis吸収測定では、照射波長を連続的にスキャンすることで、横軸に波長、縦軸に吸光度をプロットしたグラフ(吸収スペクトル)として測定結果を図示します。一般的な装置では、吸光度が2.5〜3.0以上になると、透過光量が極端に小さくなるため、正しいスペクトル形状を得ることが難しくなります。吸光度の大きな溶液のUV-Vis吸収を測定する場合には、通常の1 cm角のセルのかわりに、光路長がより短い(例えば1 mmの)セルを用います。また複光束の装置を使用する場合、参照側に(例えば透過率1 %の)減光フィルターを挿入することで、吸光度の大きな波長領域の測定精度を向上させることができます。溶液の測定では、溶媒のみが入ったセルを参照側に置いて測定することで、溶媒の吸収による影響をある程度除くことが可能です。しかし、溶媒の吸収が非常に大きな領域では、検出器に透過光がまったく届かないので、スペクトル形状を議論することはできません。

吸光度が非常に小さな試料や散乱(濁り)のある試料では、試料表面での反射や試料内の散乱の影響で、本来吸収をもたない波長領域でも、無視できない吸光度を示すことがあります。このような場合には、まったく吸収をもたないことが確実な波長(長波長側から掃引する場合は測定開始波長)の吸光度をゼロとして、観測したい波長領域での吸光度を求めます。この機能は、多くのUV-Vis吸収装置でオートゼロとよばれています。またコロイド溶液などの濁った試料では、短波長側ほど見かけ上の吸光度が大きくなることがあります。これは、光の波長の1/10程度のサイズの粒子において観測されるレイリー散乱に起因する現象で、その強度が波長の4乗に反比例するために観測されます。このような場合は、吸収をもたない波長領域のスペクトル(すなわち散乱光強度の波長依存性)を短波長側に外挿し、その曲線をベースラインとして、真の吸光度を見積もることができます。

吸収スペクトルから得られる情報は、試料の状態、濃度、試料中の成分の数、既知の情報の種類などによって異なります。一般に、電子準位間のエネルギー差が小さいほど最も長波長側の吸収ピークが長波長側にシフトし、分子内の電荷移動性が強いほど吸収バンドがブロードになります。有機分子のUV-Vis吸収スペクトルの例を図2に示します。
  • (a)
  • (b)
図2 有機化合物のUV-Vis吸収スペクトル測定例
"Dattabase of Absorption and Fluorescence Spectra of >300 Common Compounds for Use in PhotochemCAD," Taniguchi, M.; Lindsey, J. S. Photochem. Photobiol. 2018, 94, 290–327.より

図2(a)に示すように、分子内のベンゼン環の数が増えるほど、すなわち分子内の共役系が長くなるほど、吸収波長が長波長側にシフトしています。また図2(b)に示す化合物の場合、スチルベン骨格の一方のフェニル基に強い電子供与性をもつジメチルアミノ基が、さらにもう一方のフェニル基に強い電子吸引性をもつニトロ基が、それぞれ結合することによって、分子内の電荷移動性が強くなります。それにつれて、吸収が長波長側にシフトすると共に、スペクトルから振動構造が消失しブロードになっています。

Lambert-Beerの法則を利用すると、モル吸光係数が既知で濃度が未知の試料の定量分析や、モル吸光係数と濃度が既知の薄膜の膜厚測定に、UV-Vis吸収を用いることができます。図3に、特定有害物質である六価クロムのUV-Vis吸収による定量分析の例を示します。
  • (a)
  • (b)
図3  (a) Cr(VI)水溶液に発色試薬を加えた溶液のUV-Vis吸収スペクトル
(b) 吸収スペクトルの542 nmにおける吸光度から求めた検量線

地域イノベーション創出共同体形成事業 計量計測分科会環境分析研究会測定手順書(試案)
「クロメート皮膜中の6価クロムの測定」より改変
 
図3(a)は、六価クロムを含む水溶液に、発色試薬であるジフェニルカルバジドを加えた試料のUV-Vis吸収スペクトルです。六価クロムの濃度が上昇するにつれて、542 nm付近に極大をもつ、六価クロムとジフェニルカルバジドが形成する錯体の吸収帯が大きくなっています。このときの六価クロムの濃度に対して542 nmにおける吸光度をプロットすると、図3(b)に示すように直線関係が得られるため、この結果を検量線として定量分析に利用することができます。

吸収スペクトルのピーク波長や形状は、主として測定対象分子の化学構造によって決まり、媒質や濃度によって変化することは多くありません。例外的に、吸収ピーク波長が溶媒の極性や温度、pHなどの違いによってシフトする色素も存在し、これらは色素周囲の環境を評価するためのプローブとして用いられます。シアニン色素などの会合体を形成しやすい試料の場合、吸収スペクトルの位置や形状から、その会合状態についての情報が得られます。また液晶や延伸された高分子膜のように光学的な異方性をもつ試料では、偏光子を用いて吸収の異方性を測定することにより、試料の配向状態に関する知見を得ることができます。

吸収スペクトル測定は、一般に蛍光測定に比べると低感度であり、極めて微量の物質の検出には不向きといえます。しかし、逆に不純物の影響を受けにくい測定手段ともいえるため、例えばπ電子系化合物の合成過程で粗生成物を同定したい場合には、使いやすい測定法です。
 

 

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