屈折率(Refractive Index)測定

物性評価法

執筆:安藤慎治(東京工業大学)

高分子(バルク材、薄膜、溶液)の屈折率を測定します
可視光または近赤外光の波長域で透明な高分子物質のバルク材または薄膜の屈折率を測定します。測定光を直線偏光とし、試料または偏光状態を回転することで、異方的な屈折率が測定可能となり、その差から複屈折が計算できます。また、測定波長や試料温を変えることで、屈折率の波長依存性(波長分散)や温度依存性(熱光学係数)の測定が可能となります。屈折率は相対的に測定精度が高く(すなわち有効数字が多く)、対象物質の密度変化に敏感であり、また複屈折から高分子鎖の配向状態を知ることができます。

 

測定できること

屈折率(異方性、波長依存性、温度依存性) / 複屈折



 

原理と方法

①臨界角法の原理とアッベ屈折率計1)

屈折率npのプリズムの上に屈折率nの測定試料を載せ、試料の端面から境界面と平行に光を入射させると、npnの場合、スネルの法則に従い、臨界角θCで屈折します(図1)。屈折した側から観察すればθCを境界として明暗が分かれるため、θCの測定により式(1)から試料の屈折率を求めることができます。
 
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図1 臨界角法の原理1

しかし、臨界角θCを正確に測定することは実験的に難しいため、代わりに図2に示すように頂角αをもつプリズムからの出射角φCを用いて、式(2)により屈折率nを算出します。この方法を用いた測定装置は、一般に「アッベ屈折率計」と呼ばれます。
 
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図2 アッベ屈折計の原理


屈折率の測定時、試料とプリズムの接触状態を改善するために、その空隙を中間液と呼ばれる高屈折率液体(1-ヨードナフタレン(n=1.63)、ヨウ化メチレン(n=1.71)など)で満たすことがありますが、これらはいずれも弱いながら腐食性があり、また高分子を溶解させることがあるので、取り扱いには注意が必要です。

接眼部に偏光フィルムを挟むか、または偏光板付きの接眼鏡を用い、それらの回転操作によってプリズムに平行な方向と垂直な方向の屈折率を見分けることで、その差から面内と面外の複屈折を求めることができます。また、偏光方向をプリズム面と平行に設定し、試料を90°回転させた場合に屈折率に差が見られれば、試料面内での複屈折を観測することもできます。

対象試料としては、プリズムに密着できる固体、フィルム、液体が適用可能で、入射光は一般に試料の上方から照射されますが、厚さの薄いフィルム(<25μm)では膜の端面から入射する必要があるため、光源を図2の左平行方向に配置します。

物質の屈折率は一般に光の波長によって異なり、短波長から長波長に向かって減少します(波長の二乗に反比例するような変化が典型的です)。屈折率の波長依存性を分散と呼び、アッベ数という指標で表します。水素F線(486.1nm)、ナトリウムD線(589.3nm)、水素C線(656.3nm)の各波長における屈折率をそれぞれ、nF,nD,nCとすると、一般的なアッベ数(νD)は次式で表されます。
 
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(3)式からわかるように、アッベ数は逆分散率とも呼ばれ、分散が小さいほどνDの値が増加します。これは分散の程度が小さいほど、一般に優れたレンズ材料と言えるためと考えられます。

光源に白色光(例えば、ハロゲンランプや豆電球)を用いた場合、屈折率分散の大きな試料では境界面がぼやけるため(この解消のために、色消しツマミというものが装備されていますが)、白色光源よりも、ナトリウムランプ(589.3nm)または同波長の単色LEDを光源に使うことが推奨されます。また、波長の異なる複数の光源(複数のフィルターで白色光を分光、または単色のLEDを複数個)を使用することで、屈折率分散が測定できる屈折率計も市販されています。屈折率の温度依存性は、プリズムと試料の周囲に水を循環させ、その水温を変化させることで測定が可能となります。

 

②薄膜導波路の原理とプリズムカプラ2)3)

プリズムカプラは、主として基板上に製膜された高分子薄膜の屈折率を高精度で測定し、かつ固体(樹脂、ガラス)、厚手のフィルム、液体の屈折率も測定可能な装置です。図3左に示すように、試料は空気圧式の支持棒によって試料の裏面からプリズムの底部に押しつけられ、薄膜とプリズムの間にはわずかな空気層(空隙)ができます。レーザー光線はプリズムに入射したあと、プリズム底部に当たり、通常は全反射して受光器に入射しますが、入射角が特定の離散的な値(モード角と呼ばれる)になる場合は、光線が空隙を越えて薄膜に入射し、“スラブ型光伝搬モード”と呼ばれる伝搬モードにより薄膜内を伝搬するため、反射光の強度はその周辺の角度で急激に低下します。薄膜の屈折率は、最低時のモード(0次モード,図3右における最初の凹み)の角度位置からほぼ決定することができ、またモード間の角度差より膜厚を決定できるため、屈折率と膜厚を独立に測定することが可能です。
 
図3 プリズムカプラ(光伝搬モード)の構成と測定例

プリズムカプラでは、レーザー光線の光路は装置に固定されており、一方、プリズムと試料の乗った試料台の自動回転機構により、レーザーの反射位置を中心点として回転することで、レーザー光線の入射角が連続的に変化し、プリズムからの反射光量を経時的に計測することで、光伝搬モードの角度位置が決定できます。基板上に製膜された高分子薄膜で検知されるモードの数は、屈折率と膜厚に応じて増減し、例えば、波長633nmのレーザー光の場合、0次モードを検知するために~200nmの膜厚が必要ですが、1~数μmの薄膜では5つ以上のモードが検知できます。適切な膜厚の薄膜において複数の伝搬モードが検知できる場合には、高精度の測定が可能となります。但し、膜厚が厚いとモードの数が増えすぎるため、通常は15~20μm以下が好適です。

測定波長は、レーザーの発振波長により決まりますが、装置に複数のレーザーを装着することで、多波長での測定が可能となります。また、レーザーの光路途中にそれぞれの波長の1/2波長板を挿入することで、入射光の偏光状態を90°回転させることができるため、x,y,z方向の異方的な屈折率(複屈折)を測定することができます。加えて、プリズムおよび基板の裏面から薄膜試料を加熱することにより、屈折率の温度依存性を測定することも可能です。

試料の膜厚が20μm以上のバルク材の場合は、臨界角法に基づくバルク測定(図4左)を使用して屈折率を測定することができます。試料をプリズムに密着させ、反射光強度の角度依存性の測定により、試料とプリズム界面での臨界角θCから屈折率が決定されます。これは①の臨界角法と同じ原理であり、①の場合と同様、境界点が明確でない(図4右において、光量が落ち込む「肩」の角度が判定しにくい)場合は、測定精度がやや低下します。
 
図4 プリズムカプラ(臨界角モード)の構成と測定例

なお、基板上に製膜された膜厚1μm以下の薄膜の屈折率測定には、「分光エリプソメトリー法」が有効ですが、基礎的な原理はやや難解ですので、成書4)をご参照ください。
 
参考文献
1) 山口 重雄(著) 「屈折率」 共立出版 (1981).
2) 阪口 享・岩本 令吉・見矢 勝、“プリズムカップリング法による薄膜の屈折率及び膜厚の測定”, 大阪工業技術試験所季報, 40(4), 190-199 (1989).
3) Metricon Corp. "Metricon Model-2010, Thin Film Thickness/Refractive Index Measurement System Operation and Maintenance Guide", rev. 2/1/03 (2003). 
4) 藤原 裕之(著)「分光エリプソメトリー」(第2版)丸善出版 (2011).
 
 

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