第36期会長に就任して
歴史的転換点に立つ高分子の科学と技術

 

 このたびは公益社団法人高分子学会の第 36 期会長に選出頂きまして、誠に光栄に存じます。
大変な重責ですが、会員の皆様方のご支援のもと全力で務める所存ですので何卒よろしくお願い申し上げます。

 時代は今、歴史的転換点を迎えています。
コロナ感染症とウクライナ侵略で世界は大きく変わってしまいました。
材料の分野でも二酸化炭素排出量削減、資源循環、地球環境保全などへの配慮がこれまで以上に必要となりました。
この時代の変革期にあって高分子が果たす役割はますます重要になっています。
分子としての高分子説が提唱されてから100年が過ぎたばかりで材料としては金属やセラミックに比べまだ若く、高分子は今後も基礎と応用の両面での大きな進展や新しい展開が期待できると考えています。
学術の深化と新分野への展開を強力に推進するとともに、資源循環など喫緊の社会課題に対して産学官が一致団結して果敢に挑戦し、SDGsの実現に貢献する学会を皆様と一緒に作り上げるため全力を尽くしてまいります。

第36期 高分子学会 会長
伊藤 耕三

 
 

会員サービスの充実

 オンライン開催で3大行事や研究会などには海外も含めて参加しやすくなった一方、対面で密接に交流することが難しくなり、偶然の新たな出会いが減っています。
各種行事を創意工夫して、オンラインによる利点を最大限に活用しつつ対面との両立を模索し、会員間の新しい交流モデルを構築することで、会員の皆様に満足いただくサービスの充実に最優先で取り組みます。
また運営にあたってはジェンダーや世代間の多様性を重視し、皆様のご意見を反映しながら事務局と一体となって各種事業を強力に推進します。

 
 

産学官の交流

 高分子学会の会員は産と学が半数程度から構成されており、設立当初から産学官の交流が大きな使命となっていました。
高分子同友会とも協力して学会が産学官/異分野の交流ハブとなることで、社会的な課題解決に中心的役割を果たしていきます。
そのためにも学会活動の根幹である支部と研究会活動を特に重視しながら、さらなる活性化を図ります。
会誌「高分子」やPolymer Journal を通じた情報発信、インタラクティブなホームページやWebinar、高分子未来塾の活用、国際交流にも引き続き積極的に取り組みます。

 
 

人材育成

 世代と分野を越えて切磋琢磨した産学官の交流の中で厳しく鍛えられたことが、自分自身にとっても大きな財産となっています。
大きな変革の時代の中で、学会が人材育成の道場になることはこれまで以上に重要です。
教育講座の充実、各支部の若手会の交流促進とともに、シニアにも協力いただきながら世代間の知恵の継承も強力に推進します。
国内外/産学官の若手が分野の壁を超えて交流する場を提供します。
 
 

その他(企画戦略室、アウトリーチ活動など)

 このたび企画戦略室を設け、学会の中長期的課題を継続的に議論するとともに、臨機応変かつ即座に対応する方策を提案いただく場を設けます。
これは2018年に策定されたアクションプランの着実な実現を図るとともに、高分子を取り巻く環境が大きく変わったことで一部に修正が必要になったこともあります。
また会場費の高騰などによる3大行事の開催方法の見直しや、収益改善も重要です。
さらに積極的なアウトリーチ活動を通じて、高分子の良い面を一般の皆様にわかり易い言葉でお伝えすることが必要と考えています。

 
 高分子学会は70周年を迎え、今年の年会では様々な記念事業が盛大に実施されました。
70年前に高分子学会が設立された当初は、まだ高分子の科学と技術の黎明期でした。
産業の発展のためには基礎科学の貢献が必要とされただけでなく、実用化の過程で解決すべき問題が見つかり、基礎研究のネタがいくらでも出てきた時代であったと思われます。
基礎と技術が両輪となって回り出すことで、高分子の科学技術が大きく前に進み出し、それをさらに加速しようという熱い思いが高分子学会の設立に繋がったことが、最初のころの会誌を読むと良くわかります。
今まさに時代の大きな変わり目を迎え、設立当時と同じように科学と技術、基礎と応用を同じ方向に同時に回し加速することがきわめて重要となりました。
歴史的転換点を迎え高分子学会の存在意義を非常に強く感じております。
身の引き締まる思いですが、皆様と一緒に学会の運営に当たって参りますので、ご支援ご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

 
伊藤 耕三 / Kohzo ITO
1986年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了,工学博士.繊維高分子材料研究所研究員,東京大学工学部講師,東京大学大学院工学系研究科助教授を経て,2003 年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授.