平成11年度高分子科学功績賞(白川)

平成11年度高分子科学功績賞

導電性高分子の発見と開拓

Discovery and Development of Conducting Polymers

白川 英樹

筑波大学物質工学系・教授(工学博士)

 白川英樹氏は、昭和36年東京工業大学理工学部化学工学科を卒業、昭和41年同大学院理工学研究科博士課程を終了した。同年東京工業大学資源化学研究所助手、昭和54年筑波大学物質工学系助教授を経て、昭和57年同教授に就任し、平成12年3月31日に停年退官した。筑波大学在任中は、平成3年から5年まで同修士課程大学院理工学研究科長、平成6年から9年まで同第三学群長を併任した。

 同氏は、この間一貫してアセチレンの重合に関する基礎研究を続け、均一系チグラー・ナッタ触媒の濃厚溶液界面での薄膜状ポリアセチレンの合成法を開発し、この薄膜を基にポリアセチレンの分子構造および固体構造を明らかにした。さらに、この薄膜が種々の電子受容性および電子供与性試薬の添加により金属に匹敵する電気伝導度を発現することを見いだすなどにより導電性高分子という新たな分野を確立した。おもな研究業績は以下のとおりである。

  1. 薄膜状ポリアセチレンの合成
  2.  均一系のチグラー・ナッタ触媒によるアセチレンの重合時にポリアセチレンを直接薄膜状に合成する方法を見いだした。ポリアセチレンは古くから特異な光・電子的性質をもつと期待されていたが、不溶・不融性のために研究の進展が妨げられていた。この方法の開発は適切な形状の試料作製が困難であった点を一挙に解決し、次に述べるドーピングとともに導電性高分子という新しい領域を拓くきっかけとなった。

  3. ケミカルドーピング
  4.  きわめて微量の塩素や臭素などのハロゲンを添加したポリアセチレンが赤外領域の光を強く吸収する現象を見いだしたことをきっかけに、電気伝導度を測定しながら臭素やヨウ素を加えると、ポリアセチレンの電気伝導度はハロゲンの添加量とともに増大し、金属的伝導体に変化することを見いだし、各種分光法によるドーパントの分析からドーパントとポリアセチレンのπ電子との間の部分的な電子移動によって導電性が発現することを明らかにした。

  5. 液晶を溶媒とする配向重合
  6.  ポリアセチレンに限らず共役系高分子はその性質において一次元性が強く、その性質を明らかにするためには一軸配向試料を必要とする。通常は薄膜を機械的な一軸延伸によって配向試料を作製しているが、ポリアセチレンが合成と同時に繊維状の固体(フィブリル)となって析出する性質を利用して、ネマチック液晶中で重合を行うことにより、重合と同時に一方向にフィブリルが配向した薄膜を合成する方法を開発した。この方法はらせん構造をもつキラルネマチック液晶中での重合によるヘリカルポリアセチレン薄膜の合成に発展している。

  7. 共役系高分子液晶の開発
  8.  ポリアセチレンをはじめとする種々の共役系高分子の側鎖に液晶基を導入することにより、自己配向性をもつ共役系高分子液晶を開発した。

 同氏は以上の業績に加えて、国内では昭和56年度から10年計画で始まった通商産業省による次世代産業基盤技術開発制度の研究テーマのひとつとして取り上げられた導電性高分子の開発推進委員会委員を務め、国際的にはこの20年来、隔年に開催される国際会議、International Conference on Science and Technology of Synthetic Metalsの国際諮問委員、導電性高分子関連分野の国際学術雑誌であるSynthetic Metalsの編集委員を務めるなど、国際的な学術研究の発展にも貢献している。

 以上のように、同氏の高分子科学における研究業績はきわめて大きく、高分子科学功績賞に値するものと認められた。

「高分子」49巻5月号(2000年)より抜粋