昭和57年度高分子学会賞(白川)

昭和57年度高分子学会賞

ポリアセチレンに関する研究

白川 英樹

筑波大学物質工学系・教授(工学博士)

 白川英樹氏は、昭和41年東京工業大学大学院博士課程を終了後、一貫してアセチレンの重合およびポリアセチレンに関する研究を進めることによりいくつかの注目すべき成果をあげた。合成の分野では濃度の高い均一系触媒の界面でアセチレンを重合することによりフィルム状ポリアセチレンの合成方法を確立し、構造、物性の分野では、このポリアセチレンフィルムを試料として分子構造、固体構造、および電気的性質を明らかにした。とりわけ、ポリアセチレンに電子受容体や電子供与体を加えることにより電気伝導度が著しく増加し、p型またはn型の半導体から金属的伝導体へと転移することを見いだした研究は国際的に高く評価されている。以下に同氏の業績の概略を述べる。

  1. フィルム状ポリアセチレンの合成に関する研究
  2.  アセチレンを濃厚な均一系チーグラー・ナッタ型触媒で重合すると、気−液界面でのみ重合が起こり薄膜状のポリアセチレンが生成する。重合条件を変えることによりその厚さを10-5から0.5cmの範囲で調整することが可能なため、各種の性質の測定が精度よく容易に行えるようになり、この分野における研究の進展に大きく寄与した。また、シス型フィルムの機械的延伸やシス−トランス異性化を伴う加熱延伸により一軸配向フィルム調製方法を開発し、ポリアセチレンが一次元電導体としての性質を示すことを明らかにした。

  3. 分子構造、固体構造に関する研究
  4.  赤外およびラマン散乱スペクトルからポリアセチレンの立体構造には熱力学的に安定なトランス型と低温重合時に生成するシス型(シス−トランソイド)の立体異性があることを明らかにした。重水素化アセチレンとアセチレンの共重合体におけるC-H(C-D)面外変角振動の実測値と計算値との比較からアセチレンの三重結合はシス開鎖してシス型の共役鎖を生成するが、加熱によりトランス型へ不可逆的に異性化することを明らかにした。ポリアセチレンの巨視的形態は重合条件によって変化するが、微視的には太さ200Åの直径を有するフィブリルから成り、このフィブリルのからみ合いの程度が巨視的形態を決定していることを見いだした。

  5. 導電性の発現に関する研究
  6.  ポリアセチレンに電子受容体や電子供与体を加えると著しく電気伝導度が増加し、金属的導電体へと変化する。ラマン散乱、光電子分光、メスバウアー分光などから電子受容体として加えた臭素やヨウ素はポリアセチレン中でBr3-、I3-、I5-などのアニオンとなっていることから、ポリアセチレンのπ電子が部分的に移動することにより導電性が発現することを明かにした。このような電荷移動に基づく導電性の発現は多環芳香族−ハロゲン錯体やTTF-TCNQなど電荷移動錯体などで知られていたが、共役高分子化合物では初めてである。

 以上の研究成果は高分子化合物が電気的性質において絶縁体としてでなく、半導体から金属的導電体となることを示した点、高分子科学の分野に限らず、固体物理やその他の分野に与えた影響は大きく、高分子学会賞に値すると認められた。

「高分子」32巻5月号(1983年)より抜粋